セキュリティーに不安も…「キャッシュレス決済」は増税後、家計の救世主となる?
消費増税後の景気対策として、キャッシュレス決済を利用すると、店舗・期間限定でポイント還元などが受けられます。キャッシュレス決済は家計の救世主となるのでしょうか。

10月1日に消費増税が実施されますが、来年6月までは政府主導で、中小の小売店舗や大手のフランチャイズ店で「キャッシュレス決済」を利用した場合に限り、2%または5%分の値引きやポイント還元が行われます。集客を目的にキャッシュレス決済を導入する店舗が増え、ネット上でも、キャッシュレス決済の利用を勧める情報があふれています。
ただ、セブン-イレブンのQRコード決済「7pay」不正利用問題などを背景に、セキュリティー面で不安を感じ、キャッシュレス決済の利用に二の足を踏む人もいます。増税による家計の圧迫が予想される中、キャッシュレス決済を利用することは消費者の利益となるのでしょうか。ファイナンシャルプランナーの長尾真一さんに聞きました。
独自のキャンペーン実施も
Q.期間限定ですが、キャッシュレス決済で2%、もしくは5%分の値引きやポイント還元が行われます。家計にとってメリットがあるのでしょうか。
長尾さん「期間限定とはいえ、現金決済では受けられない値引き、もしくはポイント還元が受けられるので、キャッシュレス決済を利用するメリットがあると考えます。2%増税しても、キャッシュレス決済で2%あるいは5%の値引きやポイント還元を受ければ、増税前よりも負担が減る場合もあるからです。貯蓄では、多くの銀行の普通預金金利は0.001%程度ですから、長期間貯蓄をしてもあまり利用者に還元されません。数%の値引きや還元は無視できないと思います。
また、キャッシュレス決済の中でも、新しく普及してきたスマホ決済のサービスは利用者獲得の競争が激化しており、それぞれ独自のキャンペーンを実施しています。例えば、『PayPay』は10月以降、5%還元対象店舗で利用すると、さらに5%を上乗せして合計で最大10%の還元が受けられるキャンペーンを実施することを発表しており、こうしたキャンペーンを利用することもできます」
Q.一方で、キャッシュレス決済を利用する際に気を付けるべきことは。
長尾さん「使いすぎが心配な人は、後払いのクレジットカードよりも即時払いのデビットカード、前払い式の電子マネー、QRコード決済にした方がよいかもしれません。また、最近はフィッシングメールなどが増えているので、セキュリティーには注意する必要があると思います。特に、スマホ決済はサービス提供事業者によって、不正利用があったときの補償の有無や補償限度額などの内容が異なるので、事前に確認しておいた方がよいでしょう。
なお、災害時に停電や通信障害があったときにスマホが使用できなくなったり、店舗側の端末などが使用できなくなったりしてしまうリスクがあります。日頃から、最低限の現金は持っておいた方が安心だと思います」
Q.それでは、現金とキャッシュレス決済を比較した場合、どちらの方がお金を管理しやすいのでしょうか。
長尾さん「現金決済はレシートをきちんと保管していない限り、後で何に使ったか分からなくなってしまいますが、キャッシュレス決済の場合は、ウェブ上などで支払い履歴のデータを簡単に確認することができます。従って、使い方によっては現金よりキャッシュレス決済の方がお金を管理しやすい面もあると思います。
また、キャッシュレス決済でよく指摘されるのは、物理的なお金のやり取りがないためお金を使った感覚が希薄になり、つい使いすぎてしまうということです。この裏付けとして、クレジットカード決済は現金決済に比べて2割以上支出が増えるという海外の研究データがありました。
ただし、先述のように、キャッシュレス決済は後払いのクレジットカードのほかに、即時払いのデビットカード、事前にチャージする前払い式の電子マネー、QRコード決済もあります。日頃のお金の使い方に合わせて選択するのがポイントです」
Q.話は変わりますが、増税前に購入した方がよい商品はありますか。
長尾さん「一番大事なことは、慌てて必要以上に駆け込み消費をしないことだと思います。増税後もキャッシュレス決済を利用すれば2~5%の値引きもしくはポイント還元を受けられます。また、物の値段は基本的に需給関係で決まるので、仮に増税後に需要が落ち込めば、販売価格が下がって逆に安く買えるものもあるかもしれません。駆け込みムードに流されず、本当に今必要な物なのか、冷静に判断することが大切だと思います。
一方で、必ず使用するものや、すでに使用する予定があるもので、特に値引きのないもの、たとえば電車・バスの定期券や回数券、各種施設の年間パスなどは増税前に買っておいた方がお得です。なお、食料品は軽減税率が適用されて8%に据え置かれるため、買いだめの必要はありませんが、酒類は対象外で10%の標準税率になります。毎晩ビールが欠かせないという人は増税前に買っておいてもいいかもしれません。ただし、飲みすぎには注意が必要です」
Q.増税で家計が圧迫されると思います。増税後に家計で見直した方がいい項目はありますか。
長尾さん「家計の見直しで効果が大きいのは固定費(一度削減すると効果が長期にわたって持続)、そして、当然ながら金額の大きなものです。そうすると、まず確認すべきは住宅ローン、保険料、通信費などです。住宅ローン金利はかなり下がっていますので、借り換えで返済額を削減できないか、加入してから長年放置している生命保険などがあれば、今でもその保障額や保障内容が必要なものか、一度確認してみるとよいかもしれません。
また、通信費も検討の余地があります。特にスマホに関しては、格安スマホなど選択肢が増えています。自分の利用実態を確認し、それに合ったプランを探してみると、意外と安いプランで十分な場合もあるかもしれません」
Q.ファイナンシャルプランナーの立場から見て、社会でキャッシュレス決済が推進されていることをどう捉えていますか。
長尾さん「まず、世界的に見てもキャッシュレス決済は時代の流れになってきているので、日本においてもキャッシュレス化が進むことは必然的な流れと捉えています。特に今の日本は人手不足が問題になっているので、キャッシュレスの推進によって省力化や生産性の向上を目指すことは必然性があると考えます。
また、ファイナンシャルプランナーの視点で見ると、家計簿をきちんとつけて家計を管理している人はそう多くはありませんが、キャッシュレス決済にすると、スマホアプリなどで支払い履歴を簡単に確認することができ、家計管理がしやすくなる側面もあると思います。その点はポジティブに捉えて、今後のさらなる利便性の向上に期待したいと思います」
(オトナンサー編集部)
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