オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

本来しつけでは? 「片付け」を“習い事”として子に学ばせる親が増加、背景は?

子どもに「片付け」を教える習い事が増えています。本来は親がしつけの一環として教えるものですが、なぜ、お金を払う習い事として学ばせるのでしょうか。

片付けを習い事として学ぶ理由は?
片付けを習い事として学ぶ理由は?

 最近、子どもに「片付け」を教える習い事が増えています。夏休みのこの時期も、親子で片付けを習うイベントやセミナーがあちこちで開かれています。しかし、そもそも片付けは、親が子どもへのしつけの一環として家庭で教えるもの。なぜ、お金を支払う習い事として子どもに片付けを学ばせるのでしょうか。その背景を子育て心理アドバイザーの雨宮奈月さんに聞きました。

2人に1人が「片付けができない」

Q.片付けを教える習い事が増えているのは、なぜでしょうか。

雨宮さん「決して、しつけをおろそかにしているのではありませんが、親自身が片付けを苦手にしているケースが増えているからです。片付けは、親が手本を見せたり整理整頓したりする習慣がないと、なかなか身に付かないものです。実は、あるデータでは、成人の2人に1人が『片付けができない』、または『苦手』と答えているそうです」

Q.親自身が片付けができないのは、なぜでしょうか。

雨宮さん「親が片付けできない原因は(1)共働きが増えて家事に割り当てる時間が減っている(2)子どもの食事や洗濯に追われて時間がなく、片付けは比較的後回しにされがち(3)比較的ゆとりのある祖父母世代が、子どもに多くのものを買い与えるというバックグラウンド(4)とにかく家のものが増えてしまう大量生産・大量消費の経済社会(5)受験戦争が激しかったせいもあり、親自身が子ども時代に片付けをあまりしたことがない、といった今の時代ならではの要因があります。

また(6)子どもがいると、片付けてもすぐに散らかることが憂鬱(ゆううつ)になってしまう(7)親が注意欠陥・多動性障害(ADHD)や注意欠陥障害(ADD)で、片付けのような細かい作業が苦手、といった心理的な要因もあると思います。

特に25~40代の子育て世代は、ゆとりを持って家事や育児をする時間がなく、どのようにして子どもとの時間を確保していくかが取りざたされるくらいです。そのため、苦手な片付けに親子で貴重な時間を費やしてストレスを蓄積してしまうよりも、専門家に任せて子どもに片付けを身に付けさせることが、一つの賢い選択肢として挙がっているのだと思います」

Q.親向けの雑誌やネット媒体で、子どもの片付けについての特集がよく組まれます。これらから知識を得て、子どもに教えることはできないのでしょうか。

雨宮さん「雑誌やテレビ、ネット媒体などから片付け方の知識を得ている人も多いようです。最近では、収納アドバイザーや断捨離アドバイザーがSNSなどで発信する情報が魅力的で、定期的に読んでいる人も多いようです。そうした情報には工夫が凝らしてあり、自分の生活に取り入れることは理屈としては可能でしょう。

しかし、先述したように、時間がない親が増えています。片付け方の知識は得られても、片付けをする『意味』や『必要性』を、じっくり丁寧に時間をかけて『親子で話す時間』や、子どもが片付けの意味や必要性を理解するまで『待ってあげる時間』が足りていないのかもしれません」

Q.本来、片付けは親がしつけの一環として子どもに教えるものだと思います。習い事によって教える風潮をどのように思われますか。

雨宮さん「親もしつけとして教えることを試みつつ、専門家に補佐してもらうということであれば全く問題ないと思います。継続して片付けをする習慣は一朝一夕ではつくれません。忙しいご両親が増えている中、子育てのほんの一部分を『外注』することで、イライラを減らせて、親子で一緒に向き合う時間に充てることができるのであれば、習い事にすることはありだと思います。

子育て中の親の一人としては、『習い事としてお金を払ってやらせたいか』と問われると、他に習わせたいことがたくさんある中で、正直まだそれほど身近に感じられるジャンルではありません。ただ、何事もバランスです。今後、片付けを子どもに身に付けさせることにストレスを感じた場合、それを解消する一つの手段としてならば、家事代行や一時保育を頼むのと同様に、専門家に手を貸してもらうかもしれません」

Q.今後も、親が担ってきた育児やしつけが習い事で代用されることがあるかもしれません。親が育児やしつけでうまく子どもに教えられないと感じたとき、どのように対応したらよいのでしょうか。

雨宮さん「親が育児やしつけで困ったと感じたとき、自分の親(祖父母世代)や近所の子育ての先輩を頼ったり、時には代わりに叱ってもらったりすることが一番ですが、それがかなわない場合、そういったサービスを利用してもよく、それが決して『ダメな親』ではないということを申し上げたいです。

しかし、まずは、育児やしつけで悩みを感じたときに相談できるコミュニティーを持つことをお勧めします。私自身、『皆でみなの子を育てよう!』をモットーに15年以上、子育てサークルを主宰していますが、英語や知育のレッスンで集まったお母さんお父さんたちが相談してくるのは、毎日の子育ての悩みがほとんどです。『おもちゃを片付けない』『食べてくれない』『話を聞かない』などなど。

身近に気軽に相談できる人がいなかったり、相談するのが難しかったりする場合に、習い事やサービスを利用すればいいのです」

(オトナンサー編集部)

雨宮奈月(あめみや・なつき)

教育・子育て心理アドバイザー

IQとEQを育てる総合学習教室HEC Kids Educationを主宰。コミュニケーション能力とロジカルシンキングを伸ばす英語コース、知開コース、表現コースをオリジナルのメソッドで指導。子どもの英語劇やミュージカルをプロデュース。子育てや学習の環境を「丸ごと指導」するカウンセラーでもあり、米国で幼少期を過ごした帰国子女、3児の母でもある。HEC Kids Education(https://heckidsedu.com)。

コメント