オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

松坂桃李、どんな作品にも“気品”をもたらす優しさと強さの人間力

主演映画「新聞記者」で注目を浴びている、松坂桃李さん。数々の挑戦的な作品で、彼が高い評価を得ることができる理由とは――。

松坂桃李さん(2017年4月、時事)
松坂桃李さん(2017年4月、時事)

 10年前、一人の俳優が世に出ました。テレビ朝日系のスーパー戦隊シリーズ「侍戦隊シンケンジャー」(2009~2010年)で主役を演じた松坂桃李さんです。そして、この夏、ダブル主演を務める映画「新聞記者」で注目を浴びています。彼は、この脚本を読んだときの衝撃をパンフレットの中でこう語っています。

「物語自体はフィクションですが、それが現実の社会とも密接にリンクしていて、『こんな攻めた映画を作るのか!』という純粋な驚きがありました」

清潔な色気と役作りによる「浄化」

 確かに、この映画は「権力批判」がテーマで、彼は政権側の疑惑を暴こうとする官僚の役です。社会派作品としての色が強いため、誰もが気軽に受けられるオファーではありません。実際、共に闘う女性新聞記者の役については日本人女優が断ったため、韓国人女優に変更されたとも報じられました。

 そんな「攻めた」映画に出て高評価を得られるところに、松坂さんの素晴らしさがあるのでしょう。というのも、彼の場合、こうしたケースは初めてではありません。「僕を、買ってください。」というキャッチコピーのR18指定映画「娼年」しかり、マインドコントロールで自殺に追い込む殺し屋に扮(ふん)した映画「不能犯」しかり。

 ともすれば、下世話さや酷薄さにつながりそうな世界を、彼はその清潔な色気や真摯(しんし)な役作りによって「浄化」してきました。いわば、彼はその作品に不思議と気品を加えられるタイプの俳優なのです。

 そもそも「桃李」という名前からして、歴史書「史記」に由来する気品漂うもの。本人はテレビ番組でこう説明しています。

「うちの父が『桃李もの言わざれども下自ら蹊(みち)を成す』という中国の故事から取ってきまして」

 すなわち、桃や李(すもも)の下に道ができるように、徳のある人の下へは人が自然に集まるというわけです。名は体を表すということもあり、彼にはおのずと独特の気品が備わってきたのでしょう。

 その「気品」はデビュー作「シンケンジャー」の時点で既に発揮されていました。実はこの作品、伝統ある戦隊シリーズの中でも異色で、悪と戦うメンバーたちの間に上下関係が存在したのです。松坂さんは「殿」、それ以外のメンバーは「家臣」という位置付けで、この珍しい設定を彼は威張るでもなく、こびるでもなく、バランスよく演じていました。

 また、彼はこのデビュー作を「誇り」だと語っています。これは当たり前のようですが、戦隊モノや「仮面ライダー」のような特撮作品で世に出た俳優の中には、「黒歴史」として封印してしまう人もいます。子ども向けの枠だとして、下に見る風潮が業界内にあり、事務所も隠そうとしたりします。

 一方で、映画「仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER」(2018年)にサプライズ出演した佐藤健さんは絶賛されました。過去の自分であっても、それをマイナスに捉えてしまえば、自己卑下につながり、卑屈な印象を与えかねません。特撮出身であることを隠さず、誇りにできる自己肯定感はすがすがしいかっこよさを生み、それも気品になるわけです。

1 2

宝泉薫(ほうせん・かおる)

作家、芸能評論家

1964年岐阜県生まれ。岩手県在住。早大除籍後「よい子の歌謡曲」「週刊明星」「宝島30」「噂の真相」「サイゾー」などに執筆する。近著に「平成の死 追悼は生きる糧」(KKベストセラーズ)、「平成『一発屋』見聞録」(言視舎)、「あのアイドルがなぜヌードに」(文春ムック)など。

コメント