日本でも検討へ 被虐待児童のSOSを見逃さないための「アドボカシー制度」とは?
虐待を受けた子どものSOSが見過ごされ、亡くなる事件が後を絶ちませんが、子どものSOSを第三者が大人に届ける仕組みを作ろうとする動きもあります。

先日、改正児童虐待防止法と改正児童福祉法が成立し、親の体罰禁止が法律に明記されたのに加え、子どもの側に立って本音を聞く仕組みについても、2020年春をめどに「必要な措置を講じる」ことが付則に盛り込まれました。この仕組みは「アドボカシー制度」と呼ばれ、野田市女児虐待死事件のように、子どものSOSが見過ごされる虐待事件を減らす手立てとして期待されています。7月中には、日本での普及活動を行う全国組織も設立される予定です。アドボカシー制度に詳しい熊本学園大学の堀正嗣教授に聞きました。
英国では2002年に創設
Q.「アドボカシー制度」とは何ですか。
堀さん「英語のアドボカシーとは『擁護・代弁』の意味であり、虐待を受けて助けが必要な子どもの意思を第三者の大人がくみ取り、日本でいえば児童相談所や学校、保護者など関係機関に伝える制度です。イギリスでは国の仕組みとして2002年に作られましたが、日本ではまだ確立されていないので、こうした制度が必要ではないかと考えています」
Q.なぜ、日本でもアドボカシー制度が必要なのですか。
堀さん「児童虐待を受けてSOSを発しているにもかかわらず、それが見過ごされて亡くなる子どもの事例が後を絶たないからです。児童相談所など虐待の関係機関が関与しているのに虐待死を防げなかったのは、子どものSOSが大人にしっかりと届き、その子どもの声に沿って大人がしっかりと動けていなかったことが原因です。
子どものSOSの声を、大人やさまざまな制度につなぐことができていないので、子どもの側に立ってそれを届けてくれる人や仕組みがあれば、児童相談所や関係機関ももっと子どもの立場になって動けるようになると思います」
Q.アドボカシー制度により、虐待を防ぐことができるのですね。
堀さん「アドボカシー制度だけで虐待を防ぐことはできません。この制度はあくまで、子どもの意見表明支援や代弁を行っていくことであり、子どもを直接虐待から防ぐ救済者の役割は持っていないのです。
日本では、虐待から子どもを守る救済者になるのは児童相談所です。児童相談所が、質量ともにきちんとしたものになって、虐待を受けている子どもを救済してもらわなければ、虐待から子どもを救うことはできないと思います。アドボケイト制度は、児相だけでは足りないものを補っていく仕組みだと考えています」
Q.アドボカシー制度を担うアドボケイトは、どのような人が担うのですか。
堀さん「イギリスでは、専門家ではなく、一般市民が中心になってアドボケイトを担っています。もちろん、日本でも市民が担えると思っています。向いているのは、第三者として子どもの側だけに立ち、子どもの声をしっかりと届けてくれる人です。一般市民は、そうしたことをやりやすいポジションにいます。
学校の先生やケースワーカー、弁護士などは、経験や専門知識が生かせる半面、教えたり導いたりするスタンスが邪魔をしてアドボカシーが難しくなる場合もあります。アドボケイトは、完全に子どもの側に立って、むしろ子どもの後ろに立って、子どもの声を応援するような立場です」
Q.特別な専門知識を身に付けないといけないのですか。
堀さん「心理学などの専門知識は必要ありませんが、アドボケイトとして必要な最低限の知識は身に付けてもらいます。この力とは、『子どもと仲良くなり信頼してもらえる力』『子どもの話をしっかりと聞き取ることができる力』『子どもの意見や権利をしっかりと代弁できる力』です。イギリスでは座学・実習などの養成講座があり、認定資格制度もあります」
オトナンサーの記事(アドボカシー制度の話を読んで頂き、堀さんという方に、是非伝えたい虐待問題があります。改善した対策にも、被害児達の叫び悲鳴は届かない?見ぬふりをする現状を使って社会の深刻な問題を変えることが出来ればと切ない思いをお願い致します。