本当はイカン? 謝罪の意味がない「遺憾」が謝罪会見で使われる理由
企業や政治家が不祥事で謝罪するとき、「遺憾」という言葉を使うことがありますが、実はこの言葉に「謝罪」の意味はありません。
企業や政治家が不祥事を起こして謝罪するとき、謝罪の言葉として「大変遺憾に思います」と話すことがあります。しかし、この「遺憾」の意味を辞書で調べると、「期待したようにならず、心残り、残念であること」とあり、謝罪の意味はありません。にもかかわらず、「申し訳ありません」と言わずに「遺憾」という言葉を使う人がいるのはなぜでしょうか。広報コンサルタントの山口明雄さんに聞きました。
英語では「regret」、日米で歴史は古く…
Q.「遺憾」という言葉には、謝罪の意味が含まれていません。謝罪するときに使われ始めた時期と理由を教えてください。
山口さん「確かに『遺憾』には謝罪の意味はなく、『残念だ』『心残りだ』が本来の意味です。英語の『regret』に当たりますが、『遺憾』『regret』という言葉が、謝罪の場面で使われ始めた歴史は古いです。アメリカでは建国以前、日本でも明治時代にさかのぼると思います。
『公の場で謝罪することは、自分の非や責任を正式に認めることであり、多大な損害賠償を請求されることにつながる』という法的な考え方が何世紀も前から存在しており、現在でも一部の弁護士は、かたくなにそう信じています。そこで、法的には非を認めたことにならず、加えて謝罪したような印象を与える言葉として『遺憾』が重宝、多用され、決まり文句になったのだと思います」
Q.「申し訳ありません」と素直に謝った方が、謝られる側にとっては誠意を感じると思います。「遺憾」という言葉を使うメリットは。
山口さん「先述の通り『遺憾』という言葉を使えば、謝罪の印象を与えながら法的には責任を認めたことにならないと考えられてきました。それをメリットと思っているのでしょう。例えば、製造会社が『今回の異物混入問題は流通の過程で発生したことではありますが、消費者の皆さまにご迷惑をおかけしたことを大変遺憾に思っております』と言うと、『消費者には申し訳ないと思っているが、法的責任はない』と表明したことになると信じられてきたのです。
現在では、メーカーが『消費者の皆さまにご迷惑をおかけしてしまい、大変申し訳ありません』と言ったとしても、すぐに異物混入の責任を認めたことにならないというのが一般的な考え方です。しかし、多くの企業や政治家は今でも、『遺憾』を使えば、非を認めたと誤解されるリスクを回避できると考えているのでしょう」
Q.企業や政治家が謝罪するときに「大変遺憾に思います」と述べて、逆に火に油を注ぐこととなった事例はありますか。
山口さん「思い当たりません。ただ、『記憶にありません』など責任回避の文言が火に油を注いだ事例は、数が多すぎてきりがありません」
Q.では『遺憾』を使った主な例は。
山口さん「謝罪の代わりに『遺憾である』という言葉が使われるのは、日常茶飯事です。『不徳の致すところ』とともに、非を認めない謝罪の決まり文句です。昨年、警察官や職員の逮捕者が15人も出た大阪府警のコメントは、『きわめて遺憾で言語道断』でした。記者も私たちも、この決まり文句に慣れることなく、『府警としては悪かったと認識していないのですか』と問うべきでした。
これとは別に、『遺憾』は相手を非難する言葉としても使われます。内閣府が、特定の記者を名指しして『質問が事実に反し極めて遺憾だ』と指摘したことがありました。マスコミはこの指摘を大問題だとして大きく報道し、日本新聞労働組合連合も厳重に抗議する声明を発表しました」
Q.一般の会社員が仕事でミスをして上司や取引先に謝るとき、「大変遺憾に思います」は通用するでしょうか。
山口さん「通用しません。これまで説明した通り、『遺憾』は謝罪の決まり文句として使われますが誤用です。謝罪の意味はなく、『残念だ』『心残りだ』が本来の意味です。『ミスをしたことが残念だ』と言っても謝罪したことにはなりません。誤用であることを知っている上司や取引先からは『常識のない人だ』と軽蔑されてしまいます」
Q.私たちが不特定多数に向けて謝るとき、どのような言葉の選び方をして謝ると相手を納得させられるのでしょうか。
山口さん「不特定多数に向けた謝罪は『申し訳ありませんでした』といった、誰にでも分かる言葉がよいと思います。他にも『おわび申し上げます』『すみませんでした』などは使えますが、『慚愧(ざんき)の念に堪えません』というような難しい謝罪文言は間違っても使わないようにしましょう。
大事なことは、謝罪の理由を付け加えることです。相手が特定できる場合『商品を取り違えるというミスを犯してしまい申し訳ありませんでした』『こちらの不手際でおけがをさせてしまい本当にすみません』というように、謝罪文言の前に理由を明確に述べた方が、謝罪はより真摯(しんし)なものとなります。
しかし、相手が不特定多数の場合は、『ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした』『過ちをおかしてしまい、すみませんでした』といった広範な理由の文言を選ぶしかないことが多いと思います。そうであっても、謝罪文言はその理由とパッケージにして使わないと心が通じません」
(オトナンサー編集部)
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