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丸山穂高氏の“戦争発言”は「言論の自由」の下に許されるのか 免責特権との関係は?

「戦争で島を取り戻す」ことの賛否を問う発言をした丸山穂高衆院議員が「言論の自由」を主張しています。「言論の自由」があれば、何を言っても許されるのでしょうか。

丸山穂高衆院議員(2019年5月、時事)
丸山穂高衆院議員(2019年5月、時事)

 日本維新の会に所属していた丸山穂高衆院議員が、北方領土の国後島について、「戦争で取り戻す」ことの賛否を問う発言をして党を除名され、衆議院に議員辞職勧告決議案が提出されました。丸山議員は発言を撤回し、謝罪したものの、辞職勧告については「この国の言論の自由が危ぶまれる」と批判しており、議員を続ける意向を示しています。「言論の自由」を主張すれば、どのような発言も許されるのでしょうか。弁護士の藤原家康さんに聞きました。

社会的意義ある「言論」ではない

Q.まず、基本的な質問ですが、「言論の自由」について改めて教えてください。

藤原さん「憲法21条は、言論などの表現の自由を保障しています。これにより、言論などの表現を通じて多様な情報が社会に流通することになります。これらの情報は、市民が政治のあり方を決めていくに際して必要不可欠であり、国民主権や民主主義といった社会の根幹と表裏一体のものです。そして、この自由の意味は、特に、権力者にとって都合が悪い内容の情報が流通することを保障することにあります。

そのような情報の流通は法律などにより妨害されやすく、その妨害に対し、憲法で歯止めをかけて防ぐことにこの保障の大きな意味があります」

Q.「言論の自由」があるということは、何を言ってもいい、ということなのでしょうか。

藤原さん「誤解されがちですが、自由や人権は、必ずしも無制限に認められるものではありません。他の自由や利益と衝突し、それらとの調整が必要な場合は、制限されます。言論の自由も、場合により制限されます。例えば、ある言論が他人の名誉を害する場合、名誉毀損(きそん)罪や侮辱罪が成立することがあります。

また、発言が言論として常に保障されるわけではありません。例えば、第三者を侮辱するためだけの言葉(「死ね」「ゴキブリ」など)は、言論の自由で保障されると考えるべきではありません」

Q.今回の丸山議員の発言は、なぜこれだけ問題になっているのでしょうか。

藤原さん「発言の内容や状況が大きいと思います。丸山議員は北方領土のビザなし交流団に参加し、国後島への訪問の際、団長に『戦争でこの島を取り戻すのは賛成ですか、反対ですか』『戦争しないとどうしようもなくないですか』などと発言したとされています。戦争で北方領土を取り戻すことは、侵略そのものであり、平和主義、戦争放棄を定める憲法9条のみならず、武力禁止原則を定める国連憲章2条4項にも違反するものです。

また、北方領土のビザなし交流は、北方領土問題の平和的な解決のために関係者が尽力して行ってきたものであり、これらの発言はその交流の趣旨に大きく反するものです。しかも、その発言の主体は、国民を代表する現職の国会議員でした。

また、国会議員が憲法に違反する内容をもとにした発言をすることは、憲法尊重擁護義務(憲法99条)にも反するものです。このように、丸山議員の発言は複数の大きな問題を含むため、これだけ問題になっているのだと思います。

なお、丸山議員は、自身に対する辞職勧告決議案が検討されていることについて、『言論府が自らの首を絞める』『このままではこの国の言論の自由が危ぶまれる』と述べたそうですが、今回の発言の内容は、上記の社会的意義を有する『言論』とは評価し難いものといわなければなりません」

Q.国会議員などの公務員による、憲法に反する発言や、憲法をないがしろにした発言は他にもあると思います。なぜ、今回は特に問題が大きくなっているのでしょうか。

藤原さん「戦争で北方領土を取り戻すことは、どのような立場からも正当化し得ないものであることなど、この発言が、国会議員の行為としてあまりに問題があることが明白であったことが一因であると思います」

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藤原家康(ふじわら・いえやす)

弁護士

東京大学法学部第一類卒業。2001年10月弁護士登録(第二東京弁護士会)。一般民事事件・刑事事件・家事事件・行政事件・破産事件・企業法務などに携わる。日本弁護士連合会憲法委員会事務局次長、第二東京弁護士会人権擁護委員会副委員長などを歴任。中学校・高校教諭免許(英語)も保有する。TBS「ひるおび!」「クイズ!新明解国語辞典」「夫婦問題バラエティ!ラブネプ」、フジテレビ「お台場政経塾」などメディア出演多数。

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