使い分けが必要? ビジネスシーンで“方言”は使ってもよいのか、マナー講師に聞く
就職や転勤で地方から首都圏に移り住み、新しい職場で働き始めた人も多いと思います。ついつい出てしまう「方言」は、ビジネスシーンにふさわしいのでしょうか。
新年度に入り、就職や転勤などで地方から首都圏に移り住み、新しい職場で働き始めた人も多いことでしょう。地方出身者の場合、職場でも地元の方言やイントネーションのまま会話するケースが見られますが、「方言はビジネス上のコミュニケーションには向かない」「ビジネスシーンでは標準語を話すべきだ」との声もあるようです。
ネット上では「営業職でなければ方言でも問題ないのでは」「方言は個性の一つだから、標準語を強要するのはおかしい」「直す必要はないけど、使い分けは必要かも」「意味が通じない方言だと厳しいかな」など、さまざまな意見が寄せられています。
これについて、専門家の見解はどのようなものでしょうか。「マナーは互いをプラスにするもの」をモットーに、国内外の企業や大学などで人財育成教育やマナーコンサルティングを行うほか、NHK大河ドラマなどのドラマや映画でマナー指導を行い、国内外で85冊以上のマナー本を出版・監修するマナーコンサルタント・西出ひろ子さんに聞きました。
受け取られ方で多少のリスクも
Q.ビジネスシーンで「方言」を使うことについて、どのように思われますか。
西出さん「私は大分県出身で、地元の方言は身に付いています。大学進学を機に上京しましたが、ビジネスシーンでは、相手に理解をしてもらえる『標準語』、すなわち、相手がすぐに『理解できる言葉』を選んで話すことを心がけました。とはいえ、身に付いているイントネーションはなかなか直せず、今でも『関西・九州方面のイントネーションですね』と言われることがあります。
方言の使用についてマナー的観点からお伝えすると、『方言はその地域特有の言葉であるため、正確な意味やニュアンスはその土地の人でないと理解しづらい』という認識を持つのは大切なことです。例えば、大分県の方言である『よだきい』の意味を理解できる人がどれくらいいらっしゃるか、ということですよね。これは『面倒くさい』という意味です。
マナーは『相手の立場に立ち、その場や人間関係を円滑にし、互いに心地良くなるもの』です。ビジネスシーンにおいて、言葉の意味が通じなければ、スムーズなコミュニケーションとは言い難いこともあります。
マナーは互いをプラスにもたらすものです。方言の意味が分からない人と、方言を使用したことでマイナスに思われる人の間にはプラスの関係は構築されず、そこにはマナーが宿っていないと評価されます。そうした意味で、ビジネスの場における方言の多用は、相手の受け取り方によっては、多少のリスクをはらんでいるといってもよいでしょう。
一方で、『今の言葉の意味は何ですか』など、方言がコミュニケーションのきっかけとなる場合もあります。また先述の通り、イントネーション一つで『関西の方ですか』『ご出身は九州ですか』などと、会話が盛り上がるきっかけとなる側面もあります。相手や状況などによるところは多分にありますが、こうした方言やイントネーションのメリットを取り入れることができれば、ビジネスコミュニケーションの大きな武器になる可能性もあります」
Q.マナー的観点から、ビジネスシーンで方言を使ってもよいでしょうか。それともNGでしょうか。
西出さん「マナー的観点から言えるのは、ビジネスシーンでは基本的に『標準語を使用する』と心得ている方がよい、ということです。
方言は、自分にとっては標準語かもしれませんが、それを知らない相手にとっては“初耳”の言葉となり、意味を理解できなければ、コミュニケーションが進んでいかないでしょう。マナーの基本である『相手の立場に立つ』ことを意識するならば、相手がすぐに理解できる言葉をビジネスシーンで使用することは、相手に対する配慮の一つといえます。
また、職場などでも方言を使う癖が抜けずにいると、会話のみならずメールや書類の文面などもうっかり方言口調で書いてしまいかねません。文字の場合はそれが残ってしまうので、一層の意識が必要です。こうした状況を防ぐためにも、仕事に関わる会話はできるだけ標準語で行うのが無難といえます。
ただし、方言やイントネーションをあまりにも気にしすぎて、会話をすることが怖くなったという方もいらっしゃいます。そうならない程度に、自身で加減してくださいね。マナーは相手に配慮することで、自分を大切に守ることでもあるのです」
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