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「酒乱」になる人は遺伝子と性格が影響している-酒乱を研究する医師に聞く

お酒で人が変わってしまう「酒乱」になるかどうかは、遺伝子が影響している? 自らも酒乱であるとカミングアウトし、研究している医師に聞きました。

「酒乱」になるのは、どんな人?
「酒乱」になるのは、どんな人?

「あの人、お酒を飲むと人が変わっちゃうんだよね」という会話を聞いたことがありませんか。「あの人」の変わりぶりが、いわゆる「酒乱」といえます。時には、酒乱時の言動や行動が大問題に発展することもあります。何が原因で酒乱になってしまうのでしょうか。神経内科医で酒乱を研究し、自身も「酒乱になることがある」と話す、帝京科学大学医療科学部医学教育センターの真先敏弘(まさき・としひろ)教授に聞きました。

酒乱は医学的に「複雑酩酊」

Q.「酒乱」というと、「お酒を飲んで暴れる人」という印象があります。医学的な定義はあるのでしょうか。

真先さん「酒乱は、医学的にいうと『複雑酩酊(めいてい)』といいます。アルコールによって脳内の大脳皮質が麻痺(まひ)し、社会的な規範を逸脱する言動が出ている状態です。一般的には、お酒を飲んだとき、常識を無視した暴言を吐いたり態度が大きくなったりする状態のことを指します。酒量ではなく、血中のアルコール濃度が急激に上がることが酒乱になるきっかけと考えられています」

Q.お酒を飲んで暴れると酒乱だと分かりやすいですが、暴れないまでも酒乱と呼べる状態はあるのですか。

真先さん「お酒を飲んで社会常識を逸脱するような行動や言動があれば、それをもって酒乱となりますが、社会常識は人によって捉え方が異なります。つまり、社会常識に厳しい人は、誰かがちょっと羽目を外しただけで酒乱というかもしれません。どこからが酒乱であるかという具体的な線引きは難しいです。相手の受け止め方が大きく関わっており、その点では、セクシャルハラスメントと同じだと思います」

Q.日本では、酒乱になる人が海外に比べて多いのでしょうか。

真先さん「日本でどれくらいの人が酒乱になるかを調べた客観的なデータはありません。ただ、日本では、“ハレ”の日といって、忘年会などの宴会では、ある程度お酒を飲んで羽目を外すということがわりと許される風潮があると思います。しかし、欧米ではお酒を飲んで常軌を逸脱するのは駄目という風潮は、日本よりもずっと厳しいです。そうしたことから、仮にデータを取ってみれば、確率的に日本人の方が酒乱になる人が多いでしょう」

Q.酒乱になる原因は何ですか。

真先さん「遺伝子が深く関わっていると推測します。アルコール分解をする酵素の一つに、アルコール脱水素酵素(ADH)があります。その遺伝子には、アルコールの分解速度が『速い遺伝子』『遅い遺伝子』の2種類あり、人間には『速い遺伝子を2つ持つ人』『速い遺伝子と遅い遺伝子を1つずつ持つ人』『遅い遺伝子を2つ持つ人』の3パターンがあります。『遅い遺伝子を2つ持つ人』に、酒乱になる傾向があると考えています」

Q.普段は真面目ですが、お酒を飲むと性格が変わってしまう人がいます。遺伝子以外にも、性格が酒乱に関係しているのでしょうか。

真先さん「どのような性格の人が酒乱になりやすいか、客観的なデータはありません。しかし、性格も関係していると私は考えています。例えば真面目な人は、普段は社会常識を一生懸命、守ろうとしている人だと思います。こうした、普段は抑制している人ほど抑制が取れたときにその反動が強いと思います。真面目な人で、アルコールの分解速度が遅い遺伝子を2つ持つ人は酒乱になりやすいと思います」

Q.客観的なデータがほとんどないとのことですが、医療業界で酒乱を研究する動きはないのですか。

真先さん「医療業界で、酒乱を研究している人はほとんどいません。アルコール依存症に関心が集中しているからです。酒乱の人は自ら公言するわけではないので、調べようにも、該当者を見つけるだけで非常に手間がかかります。そこで、医師は、アルコール依存症をどのように防ぐかということに視点が向くのです」

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