オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

“24時間営業”のスポーツジムが増加…早朝や深夜の運動は、健康上問題ない?

24時間営業の小型ジムが増えています。いつでも、気軽に運動できるのは便利ですが、深夜や早朝に運動するのは健康上、問題ないのでしょうか。

深夜や早朝の運動、健康上の問題は?
深夜や早朝の運動、健康上の問題は?

 近年、首都圏を中心に24時間営業の小型ジムが増えています。筋トレマシンなど必要最低限の器具のみ設置しており、通常のスポーツクラブに比べ低価格で利用できるのが特徴です。いつでも気軽に運動できるとあって、多忙なビジネスマンを中心に人気ですが、深夜や早朝に運動するのは健康上、問題ないのでしょうか。スポーツ医学などが専門の山梨大学大学院の小山勝弘教授に聞きました。

激しい運動は勧められない

 なお、「深夜の運動」「早朝の運動」の影響を小山教授に聞く上で、深夜の運動は、事前に夕食を取った上で午後11時~翌午前4時の間に実施(運動後2時間以内に就寝)、早朝の運動は午前4時~7時の間で、起床後1時間後に実施すると仮定します。

Q.深夜の運動は、健康上の問題はありますか。

小山さん「軽めの有酸素運動であれば、大きな問題はありません。激しい運動や1時間以上にわたる長時間の運動を行うと、食べ物の消化や吸収が妨げられる場合があります。また、就寝直前に運動すると、体の一日のリズム、いわゆる体内時計が乱れるリスクもあります。

そもそも、運動は交感神経の働きを活発にさせます。一方で、入眠には副交感神経が優位となる必要があり、この切り替えがうまくいかないと睡眠障害に陥るリスクが高まります」

Q.早朝の運動はどうでしょうか。

小山さん「深夜同様、激しい運動はあまりお勧めできません。十分に準備運動を行った上で、徐々に強度を上げて体を慣らすことが大切です。睡眠中は副交感神経が優位な状態ですが、起床後、徐々に交感神経が活発になります。いきなり激しい運動を行うと交感神経を急激に活性化させてしまい、心臓などの循環器系に過大な負担をかけるリスクがあります」

Q.深夜、早朝時の運動の注意点は。

小山さん「深夜、早朝に限らず、常にいえることですが、運動の効果は(1)運動(2)栄養=食事(3)休養=睡眠の3要素が十分に整った際に最大化します。可能であれば、運動後30分以内を目標に、食事(難しい場合には、タンパク質や糖質を含んだ補食)を取ることが望ましいです。深夜の場合、その後に良質な睡眠を確保できれば、成長ホルモンの分泌が促進され、骨格筋のタンパク質の合成作用がさらに助長されます。

早朝の運動の注意点ですが、睡眠中は脱水が進むため、起床時は体内の水分が不足する傾向にあります。事前に十分な水分補給を行った方がよいでしょう。特に夏に早朝の運動をする場合、脱水による事故も発生しやすいので要注意です」

Q.深夜は筋力を付けやすい時間帯なのでしょうか。

小山さん「筋力を付けるのに最適な時間帯というわけではありませんが、運動前の夕食で糖質やタンパク質を十分に摂取できれば、運動の効果は上がります。骨格筋の肥大は、タンパク質の合成と分解のバランスで決定されますが、運動前に夕食を取ると、運動中は骨格筋のタンパク質の分解が抑制され、運動後はタンパク質の合成が進みやすいとされています。

また、食事により、骨格筋をはじめとする全身のエネルギー量(特に糖質)は十分に備わっていますから、強度を高めにすることが可能となり、運動による刺激を効果的に全身に与えられます」

Q.早朝はいかがでしょうか。

小山さん「骨格筋量を増やすためには、ある程度の強度で運動することが求められます。一般的に早朝の運動は空腹時に行うため、運動の強度を上げにくい点で、やや効率が落ちるといえます」

Q.早朝の運動でダイエット効果は期待できますか。

小山さん「前夜の夕食後に相当な時間が経過した時点では、運動を行う中心的器官である骨格筋をはじめ全身のエネルギー(特に糖質)が不足する傾向にあります。そのような状況でエネルギー需要を高める有酸素運動を行うと、体内の脂肪が優先的に燃焼されるため、いわゆるダイエット効果が発揮されやすいと考えられています。

しかし、これは『運動中の消費エネルギーが何に由来するか(糖質vs脂肪)』だけに着目した解釈です。実際は運動を実施した影響は『運動中』だけではなく、『運動後』にも持続して現れることが知られています。『いつ運動するか(空腹時か満腹時か)』ではなく、運動後の食事によって摂取するエネルギー量も加味して『どれだけ運動するか(総消費エネルギー量≒運動の「強度」と「時間」の積)』の多寡が最も重要である、とする考え方もあります。

つまり、早朝の『運動中』のダイエット効果は高いといえますが、『運動後』を含めたトータルでのダイエット効果という視点からすると、1日の総消費エネルギー量を考慮する必要があるということです」

Q.スポーツ選手が深夜、早朝に運動することはありますか。

小山さん「海外の大会に出場する選手などが、現地の競技時間に合わせて体内時計を調節する目的で、早朝や深夜にトレーニングを行う場合はあります。また、多くのアスリートは、それぞれの種目の専門的なトレーニングを日中に重点的に行うため、基礎体力の向上を目的としたトレーニングを朝に行うケースはあります。

ただ、深夜や早朝に運動する特別なメリットはないので、意図的に運動することはほとんどないと考えられます」

Q.スポーツの関係者にとって、24時間運動できるジムが増えたことの意味は。

小山さん「現役世代のビジネスマンの中に『運動』の必要性を理解する人が増えつつあるということであれば、大変喜ばしいことだと思います。かつては、働き盛りの世代は、自身の体に高い関心を払って生活する人が少ないと指摘されていました。生涯にわたって健康を保ち長生きするための努力は、早い段階から始めた方がその効果が高くなる、というのが予防医学の鉄則です。

ただし、運動のやり方は丁寧に計画すべきです。特に、食事と睡眠との関係を無視して運動をすべきではありません。何を目指して運動するのか明確にし、そのためにどのような生活リズム(運動、食事、睡眠)を構築すべきかを自身でしっかり考えることが大切です。必要に応じてスポーツ科学や健康科学の専門家のアドバイスを受けましょう」

(オトナンサー編集部)

小山勝弘(こやま・かつひろ)

山梨大学大学院教授、医学博士

1968年栃木県生まれ。筑波大学大学院修士課程体育学研究科修了、兵庫医科大学大学院博士課程医学研究科修了。専門は運動生理・生化学、健康科学、スポーツ医学。講道館柔道六段。現在、日本オリンピック委員会強化スタッフ、全日本柔道連盟強化委員会科学研究部員、同教育普及・MIND委員会指導者養成部会副部長、日本体力医学会編集委員会委員、日本武道学会編集委員会委員長を務める。著書は「ゆるスクワットの教科書」(主婦の友社)、「寝たきりになりたくないなら5秒でいいから筋トレしなさい」(KADOKAWA)、「運動生理学-生理学の基礎から疾病予防まで」(三共出版)など多数。

コメント