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日本にも数百万人? モノを手放せない「ためこみ症」の原因・治療法・周囲の接し方

日本には「ためこみ症」といわれる精神疾患を抱える人が数百万いるとされ、周囲に助けを求められない家族もいます。

「ためこみ症」とは、どのような疾患か
「ためこみ症」とは、どのような疾患か

 テレビなどで報道される「ごみ屋敷」。その全てに当てはまるわけではありませんが、当事者の中には、「ためこみ症」という精神疾患の人が含まれているそうです。どのような病気なのでしょうか。臨床心理学の分野で「ためこみ症」の研究に携わる、上越教育大学大学院臨床心理学コース教授の五十嵐透子さんに聞きました。

モノを手放したり処分したりすることが難しい状態

Q.「ためこみ症」とはどのような病気ですか。

五十嵐さん「価値や実用性に関係なく、モノを手放したり処分したりすることが難しくなっている状態です。家の生活空間が本来目的としたように使えず、そこで生活を送っている人(たち)が生活しにくくなります。具体的には、浴室が体や髪を洗う場所として使えないほどモノであふれる、台所が料理を作る場として使えないほどモノであふれる、などです。

モノを手に入れても自宅内に持ち込むことがなければ、家の中がモノであふれることはありません。モノを入手して自宅内に持ち込んでも“整理整頓”されていれば、生活スペースに支障はきたさないでしょう。『モノの入手』『保管・保存し続ける』『整理ができていない』『処分しない』という4つの状態が“クラッター(乱雑な状態)”につながります」

Q.病気に対する日本での認知度は。

五十嵐さん「『ためこみ症』は、以前から強迫症の一症状として認知されてきましたが、強迫症の人全てにみられないこと、強迫症ではない人でもみられることから、1990年代から研究が進められ、2013年の米国精神医学会の診断基準に初めて単独の精神疾患として位置づけられました。病気として確立したのが最近のことでもあり、専門家間の認知度は高くはありませんが、少しずつ広がっています」

Q. 何が原因で発症するのですか。

五十嵐さん「神経伝達物質という、脳の細胞間で情報を伝える際に機能している『セロトニン』『ドーパミン』などのバランスの崩れや、脳の特定部位の機能が異常な動き方をする、などの原因が考えられていますが、はっきりと確定しているわけではありません。当人にとって非常につらい経験をしたことが引き金になって発症する場合もあります。20歳以下で44~70%が発症していて、発症の平均は12歳ごろというデータもあります」

Q.日本で「ためこみ症」とみられる人は、どれくらいいるのでしょうか。

五十嵐さん「海外のデータでは、人口の2~6%存在するとされており、これを日本の人口に当てはめると240万~720万人で、かなりの数と推測されます。日常生活を送りにくくなっている状態も個人差があります。また、どれだけ大量の所有物があっても、『ためこみ症』の人の中には、その病気だと自覚していない人もたくさんいます」

Q.報道で「ごみ屋敷」の問題が取り上げられます。この当事者は、「ためこみ症」といえるのでしょうか。

五十嵐さん「ごみ屋敷にしてしまった本人全てを、『ためこみ症』とは断定できません。さまざまな個人的要因や環境的要因が複合的に関わって発症し、症状のレベルもつかみにくいため、状態の確認だけでなく、本人たちと話さないと診断できないからです。人の行動には、その人なりに何らかの理由や目的があります。それらを理解しないで『ごみ屋敷イコールためこみ症』と決めつけることはあってはなりません」

Q.「もったいない」という意識でなかなかモノを捨てられない人もいます。このような人も「ためこみ症」といえるのでしょうか。

五十嵐さん「『もったいない』という意識を持つこと、イコール『ためこみ症』ではありません。両者は、保存の目的とその量、実際に目的としたことに使用したのか、生活の支障の状態などで異なります。

米国での調査によると、価値のないモノを処分することの困難さを体験している人は5人に1人いることも報告されています。また、日本では、『もったいない精神』が強く、モノを数年使わずに置いたままという人もいます。しかし、モノを置いておくことで生活に支障があるわけではなく、この人たちは『ためこみ症』ではありません」

Q.多くの捨て犬や捨て猫を拾って自宅で飼い、ふん尿の臭いで周囲に迷惑をかけている人についての報道も見かけます。この人たちも「ためこみ症」なのでしょうか。

五十嵐さん「全ての人がそうとは断定できませんが、『動物ためこみ症』という状態があります。これは『ためこみ症』の一種で、対象がモノではなく“動物”になっています。ためこむ動物は猫が多いです。日本でどれくらいの人が『動物ためこみ症』なのか、全体像は分かっていません。

動物にとって、栄養や保護が十分でなく、使用できるスペースに多くの動物が飼われ、そこで生活を送る人も周囲も、生活環境、特に衛生状態の問題に直面します。しかし、これらの状態にあることを否定する人が多いと思います」

Q.動物以外の「ためこみ症」もあるのでしょうか。

「『デジタルためこみ症(digital hoarding)』という状態も指摘されています。コンピューター内に古い書類やソフトウエア、アプリケーション、メール、写真などが整理されることなく、保存され続けている状態です。物質的には問題にされにくいですが、現代生活に不可欠なコンピューターの動きに時間を要したり、空きスペースがどんどん小さくなったりすることに伴う不便さはあるでしょう」

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