高性能だけじゃ売れない 小型ジェット旅客機「MRJ」に立ちはだかる真の壁とは
繰り返される納入延期、課題はどこに?
ここまで聞く限りは、日本の航空機産業には“バラ色の未来”が待っているように思えますが、一方で、どのような課題があるのでしょうか。
まずは納期遅れの問題があります。「半世紀ぶりに国産旅客機を製造する日本は、製造側も審査側も、どこまで安全性を担保すればいいのかわからないのです」。航空機は製造後に「型式証明」という審査が行われるそうですが、「米国への売り込みを視野に入れているMRJは、日本国内での型式証明を経た後、続けて米連邦航空局(FAA)による型式証明を受けなければなりません」。
その理由について、塩谷さんは「日本は航空機メーカーとしての実績がなく、信頼性が低いため、型式証明の質がまだ疑問視されているのです。中国のように自国でリージョナルジェットを造って、自国内で販売する分には構わないのですが、MRJは海外への売り込み強化を図っているためそこが課題です」と話します。
ただし米国側も、日本で型式証明を経た機体を一から審査し直すことはなく、副次的な部分だけだそう。「日本の審査能力が米国で信頼を得られれば問題ありません」。
手厚いサポート体制も求められる…
塩谷さんが「一番の課題」として挙げるのは「審査が通っても売れるかどうか、そして、きちんとしたサポート体制を構築できるかという点」です。
ライバルのボンバルディア社やエンブラエル社には、既に多くの納入実績があるため、「性能が良いだけでは売れません。航空機は一度売ったらそれで終わりではなく、20~30年にわたる手厚いサポート体制が求められます」。
日本にはそうした経験がないため、“本番”はこれからだそう。「100万点といわれる部品やシステムに不具合が起きた場合に、どう対応するのか。部品も6~7割が海外からの調達品。そういった状況をどうスムーズに乗り越えられるかです」。
課題は山積ですが、塩谷さんは期待を込めてこう話します。「三菱航空機と最初の納入先となる全日本空輸(ANA)は、MRJ開発当初から協力体制を築いてきました。自動車産業に続く、日本をけん引する大きな産業に成長してほしいですね」。
(オトナンサー編集部)
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