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乳幼児が頭を打つと、親の“虐待”が疑われるケースが増加 医師らが出版、経緯を聞く

「乳幼児が事故で頭を打ったら親の虐待を疑われ、一方的に親子が引き離される事例が増えている」と主張する医師が著書を出しました。

児童相談所に通告されたケースを漫画で紹介(岩崎書店提供)
児童相談所に通告されたケースを漫画で紹介(岩崎書店提供)

 世の中で虐待防止への意識が高まる中、「乳幼児が思わぬ事故で頭を打ったら親の虐待を疑われ、一方的に親子が引き離される事例が増えている」と主張する小児脳神経外科の医師たちが、著書「赤ちゃんが頭を打った、どうしよう!? 虐待を疑われないために知っておきたいこと」(岩崎書店)を出版しました。著者の一人である小児脳神経外科医の藤原一枝さんに出版の経緯を聞きました。

疑わしきは罰する「推定有罪」に警鐘

藤原一枝さん
藤原一枝さん

 藤原さんによると、つかまり立ちからの転倒や、ソファの上といった低い場所からの転落など、回転力が加わる落ち方で乳幼児が頭を打った時には、眼底出血や、頭蓋骨と脳の間に血がたまる「乳幼児急性硬膜下血腫(中村I型血腫)」が起きる恐れがあるといいます。

 一方、乳幼児を両手で抱えて強く前後に揺さぶる虐待でも中村I型血腫と似た症状となり、これを「乳幼児揺さぶられ症候群(Shaken Baby Syndrome、SBS)」と呼んでいます。中村I型血腫とSBSの判別が難しいことに加え、「児童虐待を見逃したくない」との医師の強い思いから、中村I型血種を「虐待が原因のSBS」と誤診する医師が少なくないそうです。

 眼底や頭の中の出血を確認した病院は、児童虐待を早期に発見する努力義務が法で定められており、軽症でも児童相談所に通告する場合が多く、児相が「虐待の疑いがある」と判断すれば、子どもを親から引き離し、施設に保護します。数カ月以上、親子が引き離されることもあり、親が「虐待していない」と主張するほどクレーマーのように扱われ、親子分離が長引くこともあるといいます。

 藤原さんに話を聞きました。

Q.事故による頭のけがが、親による虐待と誤解される事例は多いのですか。

藤原さん「病院から児相に通告され、子どもに会えない経験をした親からの私たちへの相談は、5年ほど前から急激に増えています。ほかに泣き寝入りしている親も数多くいると思います」

Q.なぜ増えているのですか。

藤原さん「2013年8月に厚生労働省が『子ども虐待対応の手引き』を改正し、乳幼児揺さぶられ症候群の基準を明記しました。その基準は『硬膜下血腫や眼底出血が見られた時には児童虐待の疑いがある』という色合いで書かれており、中村I型血腫とSBSとの違いを判別できない医師や、『硬膜下血腫や眼底出血があれば、児童虐待だ』と思い込んでいる医師が、すぐ児童相談所に通告するようになったからです」

Q.医師は、親の虐待の有無を見極めることはないのですか。

藤原さん「医師として優先されることは、けがの治療を行うことです。仮に虐待をしていても親はかたくなに否定するので、証言を引き出すのは大変です。だから『虐待については、児童虐待対策のプロである児相に任せよう』という気持ちが働き、すぐに通告するのではないでしょうか」

Q.虐待していないのに通告される親もいるということですね。

藤原さん「医師に悪意はありませんが、すぐに通告するシステムに安易に従っていると、えん罪を生み出す可能性があります」

Q.誤って親子が引き離される事態を防ぐには。

藤原さん「残念ながら、今のところ対応策はありません。児相が一方的に決めるからです。評価基準が示されず、何が問題だったのかも示されません。通知が来たら、従うしかないのです。不当だと思った時には、2カ月以内に不服申し立てを家庭裁判所か、児相を設置している自治体の長に訴えることができますが、決定を覆した事例は少ないようです」

Q.なぜ少ないのですか。

藤原さん「裁判に訴えた人の約2割が、途中で訴えを取り下げているからです。争っている間は子どもが親の元に帰って来れませんし、もし裁判に負けると、負けた時からさらに2年間も親子分離の期間が延びます。児相の言うことを認めた方が早く元に戻れる構造なのです」

Q.親が心がけるべきことは何ですか。

藤原さん「子どものけがには皆さん気を付けるでしょうが、特に『頭にけがをさせてはいけない』ことを意識してほしいです。ソファに1人で座らせるとか、親が見ていないところに置いておくとか、滑りやすい廊下を靴下で走らせるといったことは、決してしてはいけません。すべてのけがを防ぐことは不可能でしょうが、できる限り気を付けてください」

Q.今後に向けて。

藤原さん「診察する医師は、親の話をじっくりと聞いてほしいと思います。今回の出版が、そのきっかけになればと思いますし、この本が現在のシステムに一石を投じるきっかけになればと思っています」

「赤ちゃんが頭を打った、どうしよう!?」は1100円(税別)で、全国の大手書店などで販売中。

(報道チーム)

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