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名古屋市消防局「コンビニで飲料水を購入する場合が…」 隊員にクレームを言ったら公務執行妨害?

勤務中の救急隊員にクレームをつける行為は、公務執行妨害になりうるのでしょうか。公務員へのクレームにまつわる法的問題について、弁護士に聞きました。

救急隊員にクレーム、法的問題は?(写真はイメージ)
救急隊員にクレーム、法的問題は?(写真はイメージ)

「出動が連続し消防署に戻れない時は、救急車でコンビニ等に立ち寄り飲料水等を購入する場合があります」

 7月26日、名古屋市消防局の公式アカウントがこのようなツイートをし、話題となっています。猛暑の影響などで救急出動が増えており、何時間も消防署に戻れないことがあるため、隊員の飲食物購入に理解を求めたということです。

 今年1月には、大阪市がホームページで、自動販売機を利用する救急隊員を目撃した市民から「勤務中のこのような行動はありなのでしょうか?」と疑問の声が届いたことを紹介し、市は隊員の行動に理解を求めるコメントをしています。

 SNS上には「そんなことでクレームする方がおかしい」「わざわざ説明しないといけないなんて」「こういうクレーム言う人は公務執行妨害にならないの?」など、クレームを言う人を問題視する声が多数寄せられています。

 勤務中の救急隊員にクレームをつける行為に法的問題はないのでしょうか。グラディアトル法律事務所の刈谷龍太弁護士に聞きました。

暴行や脅迫があると成り立つ犯罪

Q.まず、公務執行妨害について教えてください。

刈谷さん「公務執行妨害罪(刑法95条1項)とは、公務員が職務を執行するにあたり、これに対して暴行または脅迫を加えることによって成立する犯罪です。罰則としては3年以上の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金が定められています。

公務執行妨害罪の『暴行または脅迫』は、公務員の職務を妨害するに足りる程度のものでなければなりませんが、現実に妨害の結果が生ずることは必要でないとされています。裁判例では、丸めた紙を顔面付近に突き付けてその先端を触れさせる程度の行為も『暴行』にあたるとされたケースがあります。

また『暴行』については、直接公務員の体に対して有形力(直接的な暴行)が行使されず、物または第三者に加えられた有形力が当該公務員に物理的に影響を与えるに過ぎない場合、言い換えれば『間接的な暴行』の場合であっても、公務執行妨害罪の成立を認めるのが従来の判例の態度です。

裁判例では、職務執行に関与する公務員でない補助者に行われた行為や、警察官が現行犯逮捕の現場で証拠として差し押さえた、覚せい剤の入ったガラス管を足で踏みつけて損壊した行為も『暴行』にあたるとされています」

Q.もし、コンビニ等で飲料水を購入している救急隊員(出動態勢は維持)に直接クレームを言った場合、公務執行妨害に該当しますか。

刈谷さん「前述の通り、公務員が職務を執行するにあたり、これに対して『暴行または脅迫』を加えることで公務執行妨害罪が成立するので、直接といえども単にクレームを言うだけでは『暴行または脅迫』にあたらず、公務執行妨害罪とはならないでしょう。

ただし、クレームに際して、直接的または間接的な有形力の行使を伴うと『暴行』になります。また、クレームが害悪を加える旨の内容となっており、それが職務を妨害するに足りる程度のものであれば『脅迫』にあたり、公務執行妨害罪となる可能性があります」

Q.では、消防局にクレームを入れる行為はどうでしょうか。

刈谷さん「消防局に対して電話やメールのクレームを入れる行為だけで、ただちに法的問題が生じることはないでしょう。

ただし、そのクレームが虚偽であった場合は、偽計業務妨害罪(刑法233条)に該当する可能性があります。裁判例では、クレームではありませんが、虚偽の内容を役所などに伝えたことで本来は無用の対応をすることを余儀なくさせ、正常な業務の遂行に支障を生じさせたとして、偽計業務妨害罪を成立させたものがあります。

また、クレーム内容が虚偽でなかったとしても、過度に執拗であるなどの場合には、業務の平穏な遂行を妨害する不法行為(民法709条)として、民事上の損害賠償責任を負うこともあります」

Q.公務員へのクレームが問題になったケースとして、他にどのような裁判事例がありますか。

刈谷さん「被告が、原告(自治体)に対して、漠然とした内容を含む情報公開請求を多数回にわたって行ったり、不当な要求を繰り返したりして、原告の平穏に業務を遂行する権利を侵害し、今後も同行為が繰り返される恐れがあるとして、同権利に基づく面談強要行為等の差し止め及び不法行為に基づく約200万円の損害賠償などを求めた事例があります。

原告の同権利に対する侵害を認め、差し止めを認めるとともに、損害賠償について一部の請求が認容されています(平成28年6月15日大阪地裁判決)」

(ライフスタイルチーム)

刈谷龍太(かりや・りょうた)

弁護士

1983年千葉県生まれ。中央大学法科大学院修了。弁護士登録後、都内で研さんを積み、2014年に新宿で弁護士法人グラディアトル法律事務所(https://www.gladiator.jp/)を創立。代表弁護士として日々の業務に勤しむほか、メディア出演やコラム執筆などをこなす。男女トラブル、労働事件、ネットトラブルなどの依頼のほか、企業法務において活躍。アクティブな性格で事務所を引っ張り、依頼者や事件に合わせた解決策や提案力に定評がある。

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