「いびき」で隣人から苦情 損害賠償のリスクは? 弁護士が解説
集合住宅の隣人から「いびきがうるさい」と苦情があったにもかかわらず放置した場合、法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。弁護士に聞きました。
集合住宅によっては構造上、隣の部屋から住人の足音のほか、洗濯機や掃除機といった家電製品の使用音などが聞こえてくることがあります。そのため、こうした生活音を巡り、住民の間でトラブルになるケースは珍しくありません。
ところで、集合住宅に住む人の中には、隣人のいびきに悩まされている人が一定数いるようで、SNS上では「隣人のいびきが聞こえてくる」「隣人のいびきで寝不足」「しんどい」「引っ越したい」などの声が上がっています。
もし集合住宅の隣人から「いびきがうるさい」と苦情があったにもかかわらず放置した場合、法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。騒音を出したときの法的責任などについて、佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。
いびきは「受忍すべき音」として賠償責任の対象外
Q.そもそも、集合住宅で近隣の住民の迷惑となるような大きな音を出した場合、法的責任を問われる可能性はありますか。根拠となる法律や騒音に該当する音の種類、刑罰も含めて教えてください。
佐藤さん「近隣住民の迷惑となるような騒音を出した場合、民法上の不法行為に当たる可能性があり、騒音の差し止めや損害賠償を請求され、法的責任を問われることがあります。
裁判所は、騒音が違法な権利侵害になるかどうかについて、『侵害行為の態様、侵害の程度、侵害される利益の性質と内容、地域環境、侵害行為の開始とその後の継続の経過および状況、その間にとられた被害防止に関する措置の有無およびその内容、効果』など、諸般の事情を総合的に考慮して、被害が『一般社会生活上、受忍すべき程度を超えるものかどうか』によって判断しています。
従って、例えば、楽器の演奏音やテレビの音、子どもの声など、音の種類にかかわらず、諸般の事情に照らし、受忍限度を超えた騒音であると判断されれば、法的責任が認められることになります。
日常生活の中で生じる騒音について、犯罪として刑事責任を追及される事例は多くありません。ただし、軽犯罪法は『公務員の制止を聞かずに、人声、楽器、ラジオなどの音を異常に大きく出して静穏を害し近隣に迷惑をかける』行為を禁じており、違反した場合、『拘留または科料』に処すると定めています(同法1条14号)。そのため、警察からの注意にも従わず、騒音を出し続けるようなケースでは、軽犯罪法違反の罪に問われる可能性があります。
さらに悪質なケース、例えば、隣人に精神的ストレスによる障害が生じるかもしれないことを認識しながら、あえて連日連夜にわたり騒音を発生させ、隣人に耳鳴りや慢性頭痛などの傷害を負わせたような場合、刑法204条の傷害罪に問われる可能性も考えられます。傷害罪の法定刑は『15年以下の懲役または50万円以下の罰金』です」
Q.集合住宅に住む人の中には隣人のいびきに悩まされている人がいるようです。もし隣人から「いびきがうるさい」と訴えられたにもかかわらず放置した場合、法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。
佐藤さん「いびきの場合、故意に周囲に迷惑をかけようとして出している音ではありません。また、住環境によっては隣室までいびきが響くことは考えられるものの、隣室に届くいびきの音の大きさは、それほど大きいものではないと思われます。
一般に、裁判において『受忍限度を超えるほどの騒音』と判断されるハードルは高く、いびきについては、『一般社会生活上、受忍すべき限度内』と判断されるため、いびきのうるさい人が損害賠償を請求され、法的責任を負うことは考えにくいです。
もちろん、法的責任を負うほどの音でなかったとしても、多くの人が眠っている深夜に、壁を越えて漏れ聞こえてくるいびきに近隣住民が苦しむことはあり得ます。苦情があった場合は、自分にできる範囲で対策することが大切だと思います。例えば、いびきがひどい場合、病気の可能性があるようなので、医療機関を受診するとよいでしょう」
Q.ちなみに、集合住宅に住んでいる人が隣人の騒音に悩まされている場合、どのように対処したらよいのでしょうか。あまりに騒音がひどい場合、警察を呼んでもよいのでしょうか。
佐藤さん「まずは、隣人に音の問題で苦しんでいることを伝え、対策を講じてもらえないか相談してみるとよいでしょう。お願いしても改善が見られず、つらい状況が続くようでしたら、弁護士に相談することをお勧めします。弁護士を通して交渉することによって、解決するケースもあります。事案によっては、騒音の差し止めや損害賠償を求め、提訴することも可能です。
先述のように、日常生活の中で生じる騒音について、犯罪に当たるケースは少なく、例えば、隣人のいびきに苦しんでいるような場合まで警察に相談すべきではないでしょう。ただし、中には傷害罪にあたるような悪質なケースもあるため、事案によって判断しましょう」
(オトナンサー編集部)
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