子宮筋腫ってどんな病気? 症状や原因、治療法について解説
ここでは、子宮筋腫の原因や症状、治療法について、医師とともに解説します。
婦人科疾患としてよく耳にする「子宮筋腫」。しかし、その詳しい症状や原因を知っている人は少ないかもしれません。実は顕微鏡レベルで見た場合、75%の女性に認められると考えられています。その種類も多岐にわたるため、正しい知識を得ておく必要があります。
子宮筋腫とはどのような病気なのでしょうか。オトナンサー編集部では、産婦人科の尾西芳子さんに聞きました。
子宮筋腫とは
子宮筋腫とは、子宮を形成している「平滑筋」の細胞が増殖し、瘤(こぶ)のような塊になる良性の腫瘍です。腫瘍の発生場所によって、現れる症状も変化します。良性のため、がんのように他の細胞に浸潤することはありませんが、大きさや数によっては重い症状が出ることもあります。非常に症例の多い疾患でありながら、明確な原因がまだ解明されていません。
ただし、初潮前の女性には見られず、閉経後は縮小傾向にあることから、女性ホルモンの関与は確実とされています。女性ホルモンが活発に分泌される成熟期の女性に最も多く、症状が強く現れる疾患です。
子宮の筋肉には元々筋腫の核が存在しており、大きくなるとさまざまな症状が現れます。筋腫の核は、卵巣から分泌されるエストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンの影響で大きくなると言われています。しかし、全ての核が大きく成長するわけではありません。
子宮筋腫の初期症状
たとえ、子宮筋腫ができていても、全ての人に症状が出るわけではないため、筋腫が大きくなるまで気付かないケースもあります。ただし、症状の重さは筋腫の大きさよりも発生する場所の方に関係しています。初期症状として多いのは次の通りです。
・過多月経(出血量が多い、血液の塊が出る)
・貧血(過多月経により鉄欠乏性貧血になる)
・月経痛(筋腫の場所以外が経血を排出させようとし、強く収縮するため)
・下腹部のしこり、違和感
・下腹部痛、腰痛
・便秘、頻尿
子宮筋腫の種類
【筋層内筋腫】
子宮筋腫の約70%を占めるのが「筋層内筋腫」で、子宮内膜の外側にある子宮筋層という筋肉の層にできます。小さいうちは無症状ですが、大きくなると子宮そのものが変形して収縮ができなくなり、月経痛や腰痛、圧迫による便秘や頻尿が起こります。発生した部位によっては不妊や流産の原因になります。
【漿膜下筋腫】
子宮の外側を覆っている「漿膜(しょうまく)」のすぐ下にできる筋腫で、子宮筋腫の約20%がこのタイプです。無症状なことが多く、過多月経なども少ないために見逃されてしまい、1~2キログラム程まで大きくなることもあります。筋腫がねじれる「茎捻転(けいねんてん)」を起こしてしまうと、激しい腹痛が起こります。
【粘膜下筋腫】
発生頻度は最も低いですが、子宮の内部に向かって大きくなるため、外側から触れることが難しい筋腫です。サイズが小さくても症状は重症で、不正出血や過多月経、ひどい月経痛、貧血による動悸(どうき)・息切れが見られることもあります。
不妊や流産の原因になりやすく、肥大した筋腫が膣や子宮頚管の中に押し出される「筋腫分娩」状態になると、出血量が増大します。手術が必要なケースが多い筋腫です。
子宮筋腫で起こる体への影響
筋腫は、さまざまなつらい症状を引き起こしますが、特に妊娠や月経サイクルに合わせた不調は要注意です。
【妊娠への影響】
100%妊娠できないわけではありませんし、大きさや場所によっては経過観察で問題ありません。しかし、筋腫が大きいということは、すなわち、その分受精卵が着床できるスペースが減るということです。
子宮が硬くなる、凹凸に変形する、内膜が薄くなるなどの状態でも着床しにくくなります。また、発生した場所が卵管付近の場合、精子や受精卵を運ぶ妨げとなってしまいます。このため、明らかな不妊原因と認められる場合は、手術の対象となります。
【妊娠中の影響】
妊娠すると、子宮内の血流に変化が起こるため、筋腫の状態も変わる場合がある他、強い痛みが出ることもあります。また、胎盤が作られる位置と筋腫の位置関係が悪い場合、胎盤が剥離してしまうことがあります。これらが原因で流産、早産になる可能性はゼロではありません。
【分娩時の影響】
筋腫が大きく、子宮を圧迫している場合、赤ちゃんが通る産道を狭くする恐れがあります。この場合、医師の判断で帝王切開が選択されます。子宮筋腫がある方の出産は、子宮の収縮不良のため出血量が多くなることがあり、母体の命に関わることもあります。このため、子宮筋腫がある方の分娩は専門の対応が必要となる場合が多いです。
子宮筋腫の治療方法
病院で検査する場合、気になる症状がある場合は保険が適用されます(定期検診の場合は保険適用外なので自己負担)。内診や超音波検査法などの基本的な検査は、保険が適用されれば1回当たり3000円程度です。
もし異常が発見され、精密検査が必要になった場合、MRI検査も保険が適用されます。MRIの検査費用は保険適用でも6000~9000円程度とやや費用がかかるため、心配な場合は事前に各病院の検査費用を問い合わせましょう。
検査で子宮筋腫が見つかった場合、症状が重い場合は薬物療法が行われます。体への影響や妊娠の希望などを考慮し、手術が選択される場合もあります。
【薬物療法】
毎月の月経痛がひどいケースや、貧血になるほどの出血量がある場合に行います。痛みそのものには鎮痛剤、貧血には鉄剤などの投与が有効ですが、子宮筋腫の増大を抑える場合は、筋腫を大きくすると考えられているエストロゲンを抑制し、閉経と同じ状態にする「偽閉経療法」が選択されます。
点鼻薬や注射などで「GnRHアゴニスト」などの投与により、エストロゲンの分泌を抑えることで筋腫は縮小します。しかし、閉経と同じ状態になるため、副作用として更年期症状が出ることがあります。また副作用予防のため投薬を止めると筋腫の大きさは戻ってしまいます。
最近では、手術前の待機療法として薬物療法を行い、筋腫を小さくしてから手術する方法が採用されています。また、経口避妊薬である低用量ピルでも、ホルモン量や出血量がコントロールできるため、月経痛の改善を兼ねて処方されることがあります。
前述のような即効性はないものの、漢方薬などの薬物療法で体質改善を行う方法もあります。生活習慣を見直し、閉経まで筋腫とうまく付き合う方法です。筋腫の急激な肥大がないか医師の経過観察は必須ですが、薬物療法でのコントロールにより、日常生活に支障が出ないようにすることが可能です。
【手術療法】
薬物療法だけでは対処できない時や、妊娠・出産を希望するのに筋腫が明らかな負担となるケースには、手術療法が選択されます。
将来の妊娠・出産を希望する方は、筋腫の部分だけを切除する「筋腫核出術」を行います。この手術では子宮本体を残すことができますが、手術での出血量が多く、取り残しがあると再び大きくなることがあります。再発リスクは約20%です。開腹手術を避けるため、先述の薬物療法で筋腫を小さくしてから腹腔鏡を使って手術創を最小限にする方法があります。
筋腫が子宮に複数できている場合は「子宮全摘術」が行われます。再発のリスクはなくなりますが、手術後は妊娠・出産することができなくなります。
近年では、子宮に栄養を運んでいる血管を閉塞(へいそく)させて筋腫への血流を断つ「子宮動脈塞栓術(UAE)」や、超音波で子宮筋腫を縮小させる「集束超音波治療(FUS)」という新しい治療方法も台頭してきました。これらは出血がない手術のため「非観血的手術」と呼ばれていますが、この療法では子宮全体の機能が低下し、自然妊娠の確率が下がる恐れがあります。
手術療法の入院日数と費用
手術療法は、治療日数も費用も負担が大きくなります。およその入院日数や費用は次の通りです。
【子宮全摘術の入院日数と費用】
・開腹手術:7~14日間/20~25万円
・膣式手術:5~8日間/20万円前後
・腹腔鏡手術:5~8日間/20~25万円
【筋腫核出術の入院日数と費用】
・開腹手術:7~10日間/15~20万円
・腹腔鏡手術:5~8日間/20万円前後
・子宮鏡下手術:1~3日間/8~10万円
【非観血的手術の入院日数と費用】
・子宮動脈塞栓:3~4日間/20万円前後
・集束超音波:日帰り/55~85万円(保険適用外)
体調やライフスタイルと向き合って相談を
「子宮筋腫は、症状が出ない限り発見されにくい上、もし定期検診などで見つかっても経過観察で問題ないケースも多い疾患です。月経痛は人それぞれのため、自分の月経痛が通常より強いのかどうか分からないことも多いでしょう。そのため、筋腫をどうするのか自分で判断するのは困難です。症状がどれほどつらいのか、妊娠・出産を希望するのかなど、信頼できる医師やパートナーとしっかり相談しましょう。体調に合わせて、薬物療法で筋腫を小さくしてから手術をするという選択もあります。
筋腫のサイズや成長スピードは個人差が大きく、米粒大の人もいれば10キログラムを超える人もいます。もし、閉経を迎えて自然に縮小したとしても、精密検査と医師の定期検診は必ず行ってください。自分の体調やライフスタイルと相談し、ベストな選択ができるよう、うまく子宮筋腫と付き合っていきましょう。まれに『肉腫』といって、がんのような性質に変わることがあるので、急におなかが大きくなったら要注意です。早めに受診してください」(尾西さん)
(ライフスタイルチーム)
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