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目を離した1~2分で浴槽に沈んで…「乳児用浮輪」に潜む危険と使用時の注意点、医師が解説

すっかり普及した乳児用浮輪ですが、その使用中に乳児が溺水する事故が増えています。使用のリスクや注意点について、小児科医が解説します。

「浮輪を着けているから安心」と油断は禁物
「浮輪を着けているから安心」と油断は禁物

 赤ちゃんの首に着けて使用する「首浮輪」や、足を入れて座る「おむつ型浮輪」の人気が高まっています。SNS上にも、浮輪姿で入浴やプールを楽しむ赤ちゃんの写真や動画が多数アップされ、「かわいい」「便利そう」と評判です。しかし、普及の一方で、浮輪を使用していた乳幼児が溺れてしまう事故も増えているようです。

 赤ちゃん用の浮輪には、どのような危険が潜んでいるのでしょうか。子どもの健康と安全について保護者への啓発活動などを行う「教えて!ドクタープロジェクト」責任者で、佐久総合病院佐久医療センターの坂本昌彦さん(小児科医)が解説します。

1~2分、目を離したすきに溺水した例も

 近年、首浮輪やおむつ型浮輪といった乳幼児用の浮輪が多く販売されています。中には「生後1~2カ月から使用可能」とうたっている商品もあるようです。しかし、保護者が目を離したすきに、浮輪を使用していた子どもが溺水してしまう事故が起きています。

 首浮輪は、空気が不十分であったり、抜けていたりすると頭が水面下にずり落ち、口や鼻が沈んでしまいます。また、足を入れて座るタイプのおむつ型浮輪は乳幼児の重心の位置が高くなり転倒しやすい上、いったん転倒すると足が抜けにくく元の位置に戻らないため、溺水する可能性が高くなります。水量が少なければ安全と思われがちですが、実は、足が着く状況では、乳幼児が底を蹴り上げることで転覆の危険が増すので注意が必要です。

 乳幼児用浮輪は本来、水に親しむための「ベビープレスイミング」を目的に発売されたものでしたが、実際には自宅の浴槽で使用されることが多いようです。浮輪を着けた子どもを浴槽に浮かせておき、そのすきに親が洗髪をしたり、場合によっては家事を済ませたりするなど、便利な「育児用品」として普及している側面も見受けられます。

 しかし、現実には、保護者がそばにいた場合でも、子どもから目を離したほんのわずかなタイミングで重大な事故につながった事例がいくつも報告されています。例えば、浴槽内でオムツ型浮輪に座らされていた9カ月の男児の場合、母親が洗髪中の3~4分のうちに浮輪から外れてうつ伏せ状態で溺水し、意識不明の重体となりました。

 他にも、母親が着替えを取りに行った1~2分のうちに浮輪から外れ、浴槽内に沈んでいた8カ月の男児の事例などがあります。

 乳幼児用浮輪は、子どもを一人で待たせるための補助具ではないため、使用にあたっては保護者の付き添いが必須です。わずかでも目を離す状況がある場合、浮輪を使用しないようにしてください。

 とはいえ、子育てをしていると、子どもから常時目を離さずにいることは難しいのが現実でしょう。私も子育てをしており、幼い子どもとよく入浴するので、分かります。従って、「目を離しても安全が確保されるために何ができるか」を考えることも大切です。

 例えば、入浴中は「目を離す時は常に会話を続ける」「洗髪中は浴槽の外に出す」「必ず上の子と一緒に浴槽に入れる」「子どもを先に風呂から上がらせる(または、自分が洗髪を終えてから子どもを浴室に入れる)」「複数の大人が関与する」などが考えられるでしょう。乳児用浮輪については「浴槽では使用しない方がよい」という結論に至ります。

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坂本昌彦(さかもと・まさひこ)

医師(佐久総合病院佐久医療センター小児科医長)

2004年名古屋大学医学部卒業。2009年小児科専門医取得。2011年の東日本大震災では、緊急医療援助チームとして岩手県大槌町で活動。その後、福島に移り、福島県立南会津病院小児科勤務。2012年タイ・マヒドン大学で熱帯医学研修。2013年ネパール・ラムジュン郡立病院小児科医。2014年より現職。専門は小児一般、小児救急、渡航医学。所属学会は日本小児科学会、日本小児救急医学会、日本国際保健医療学会、日本小児国際保健学会。資格は小児科学会専門医の他、熱帯医学ディプロマ。現在、総合病院の小児科医として臨床の第一線で活動する傍ら、保護者の啓発と救急外来負担軽減を目的とした佐久医師会による「教えて!ドクター」プロジェクトに責任者として関わる。

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