再開発でピンチの書店が“サイン色紙”募集 応援する声の一方、否定的意見も…店長に聞く
福井県の書店が、店舗存続のためにツイッターで作家にサイン色紙の提供を求めたことが、賛否両論を呼んでいます。

福井市のある書店が、再開発で存続が危うくなっている自らの店を盛り上げようと、作家などにサイン色紙の提供を呼びかけたツイッターの投稿に賛否両論が起きています。
サイン色紙を存続につなげようとする姿勢が他力本願だと思われたからで、「近くの書店が街の再開発で閉店した。頑張ってほしい」「福井で仕事していた時によく利用していたので残ってほしい」という声の一方、「サインを並べて継続的な来客につなげられるのか」「まずは従業員応対をもっと向上させて」などの意見もあります。書店を取材しました。
サイン展示だけでは終わらせない

書店は、JR福井駅近くにある勝木書店福井駅前本店(福井市)です。勝木書店は本部も福井市内にあり、北陸や関東で27店を展開しています。
1963年に開店した福井駅前本店は、JR福井駅西口エリアの商店街にあり、地元に密着した「街の書店」です。しかし、数年前から商店街の人通りの減少に伴って来店客が減り、2022年度末予定の北陸新幹線敦賀開業を見据えた再開発計画の区域にも該当したことで、存続が危うくなっています。
そうした中、店長が7月9日に以下の内容をツイッターに投稿しました。
「実は駅前の再開(発)にのまれて、店の存続があやしくなってきています。作家の皆さんに図々(ずうずう)しいお願いです。盛り上げるためにサイン色紙をください。壁一面埋めたいと思います。店をなくさないように、福井の人からより一層愛される店になるように、色々やっていきます」
この投稿に、小説家や漫画家、イラストレーター、書店関係者などから6800件を超えるリツイート、6700件を超える「いいね」が集まりました。「想像以上の反響があり、驚いています」という店長に話を聞きました。
Q.サイン色紙を募集した理由は。
店長「サイン色紙で壁一面を埋めれば、お店が盛り上がると思ったからです。ミステリー作家の明利英司さんとツイッター上で交流しているうちに、サイン色紙を頂けたことがヒントです。サインの展示だけで終わらせるつもりはありません。店頭で、作家さんや漫画家さんと読者の接点を作ろうと考えています」
Q.店や店舗周辺の現状を教えてください。
店長「店は自社ビルの中にありますが、なかなか採算が取れない状況です。車社会の進展で、無料駐車場が確保できない店の集客は難しくなっています。ここ数年は、北陸新幹線敦賀開業を見据えた再開発計画で、公共交通機関の乗り場が店の近くから駅側に移動し、店周辺の人の往来が急減しています。来店客は3割減少しました」
Q.自社ビルが再開発計画の中に入っているようですが、店として採算が取れない場合はどうなりますか。
店長「弊社ビルは老朽化もあり、再開発ビルへの移行はやむを得ない状況です。今の営業状況では、この店が再開発ビルのテナントに入っても、採算的にやっていけません。私たちとしては、いろいろな取り組みで集客力を上げ、テナントとして入ってもやっていけるようにするしかありません。それができなければ、撤退です」
Q.どれくらいの賛同がきていますか。すでにサイン色紙が届いているのですか。
店長「7月11日現在、到着しているサイン色紙が15枚、ほかに賛同の意思表明を頂いている人が30人ほどです。複数の出版社からも協力する旨の電話やメールを頂戴しています」
Q.万が一、店を存続できなかった場合、サイン色紙はどうするのですか。
店長「弊社の他の店舗で、大切に展示させていただくことになると思います。しかし、今はまだ『もし』は考えたくありません」
Q.取り組みに否定的な意見、一部には誹謗(ひぼう)中傷もあります。
店長「サイン色紙を展示するだけで終わりなら、否定的に言われても仕方ありませんが、あまり気にしていません。そういう声があるから強力な味方も出現しますし、私たちの意図に賛同していただいた人との関係や結束も深まります。フォロワーや応援ツイートが増えているのも、否定的な声のおかげかもしれません。協力いただいている作家さんや漫画家さんには感謝の一言です」
Q.今回の取り組み以前にも、来店を促す取り組みをしてきたのですか。
店長「私が福井駅前本店の店長を任されてまだ1カ月少々です。以前勤務していた金沢市の店では、お菓子売り場を手作りしたり、子ども向けに読み聞かせやワークショップイベントを開いたりしていました。地域の皆さんにカフェコーナーを開放してイベントをしてもらったり、古書市やバーゲンイベントをしたりしました」
Q.サイン色紙をきっかけに、今後どのようなことをしていきたいですか。
店長「作家さんと読者を近づける取り組みをしたいと考えています。都市部ではサイン会や講演会、また作者を囲む会なども頻繁に行われていますが、地方ではなかなか難しいです。それを、今回のサイン色紙でのつながりをきっかけに、実現したいと思っています。全力で取り組めば、作家さんのご厚意にも報いることができると思います」
(報道チーム)
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