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タクシー車内で嘔吐、お漏らし…法的責任問われる? 「車内清掃費」って応じないとダメ? 弁護士に聞く

忘年会や新年会といった飲み会でついつい酒を飲みすぎ、タクシーで帰宅した際に、嘔吐するなどし車内を汚してしまうことも考えられます。清掃費などについて弁護士の佐藤みのりさんが解説してくれました!

「車内清掃費」などを請求された場合はどうすればいい?
「車内清掃費」などを請求された場合はどうすればいい?

 忘年会や新年会といった飲み会でついつい酒を飲みすぎ、タクシーで帰宅する人もいるでしょう。酔っ払ってタクシーに乗った際、気分が悪くなって車内で嘔吐(おうと)したり、便を漏らしてしまうことがあるかもしれません。そういった場合の法的責任はどうなるのでしょうか。また、タクシーの運転手から「車内清掃費」などを請求された場合はどうすればいいのでしょうか。そのような素朴な疑問について、佐藤みのり法律事務所の佐藤みのりさんに聞きました。

逸失利益が発生 クリーニング代の相場は…

Q.気分が悪くなり車内で嘔吐してしまったり、漏らしてしまった場合、その人は何らかの法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。

佐藤さん「法的責任を問われる可能性があります。タクシーに乗るということは、運転手と乗客との間で『旅客運送契約』(商法589条)を結ぶということです。

契約を結ぶことで、運転手には、安全に最善ルートで目的地まで乗客を運送する義務が生じますが、乗客にも運賃を支払う義務のほか、運転手やタクシー会社に損害を与えないよう、注意して乗車する義務が生じます。

酔っ払ってタクシーに乗り、気分が悪くなる可能性が高いのにそのまま乗車し、エチケット袋なども使わず、嘔吐して車内を汚したり、事前にトイレを済ませることなく乗車し、漏らしてしまったりすることは、契約に基づく乗客の義務違反にあたり、損害賠償責任を問われる可能性があります。

損害としては、『車内のクリーニング代』や、クリーニングが済むまでの間、タクシーが稼働できなかったケースにおいて、『本来であれば得られるはずだった利益(逸失利益)』が考えられます」

Q.タクシーの車内を汚してしまった人が運転手から「車内のクリーニング代」を請求された場合、支払いに応じる必要があるのでしょうか。

佐藤さん「運転手から『車内のクリーニング代』を請求された場合、実際に損害が生じているのであれば、支払いに応じる必要があります。

例えば、汚れの程度が軽く、シートもはっ水性のカバーが付いており、運転手自身がさっと拭き取る程度で済むようなケースでは、ほとんど損害が生じていないと考えられ、支払う義務がないこともあるでしょう。一方、汚れの程度や臭いなどがひどく、有償で業者に清掃を依頼しなければならないケースでは、少なくとも、車内清掃にかかった実費は支払う必要があります」

Q.タクシーの運転手から「車内のクリーニング代」あるいは「合理的な逸失利益の損害」として数十万単位の賠償を請求された場合、支払いを断ることはできるのでしょうか。

佐藤さん「車内を汚してしまった場合、支払わなければならないのは、先述したように、『車内のクリーニング代』や、クリーニングが済むまでの間、タクシーが稼働できなかったケースにおいて、『本来であれば得られるはずだった利益(逸失利益)』ということになるでしょう。

クリーニング代は、かかったとしても1万円から3万円程度だと考えられます。また、逸失利益については、汚れによって本来営業するはずだったタクシーが営業できない状況が、本当にあったのか検討した上で、具体的金額を計算することになるでしょう。

タクシー会社の配車の工夫などにより損害を小さくすることができるケースもあるでしょうし、事情によって金額は変わると考えられます。

いずれにせよ、通常、数十万円の損害が生じるとは考えにくく、数十万単位の賠償請求は、過大な請求にあたるでしょう。賠償金額でもめた場合には、弁護士などに相談し、適正な金額のみを支払えるよう、先方と話し合うことが大切です」

Q.ちなみに、タクシーの運転手が酒に酔った客などの乗車を断った場合、法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。

佐藤さん「タクシーの運転手は、原則として、乗客拒否をすることができません(道路運送法13条)。ただし、『泥酔した者または不潔な服装をした者等であって、他の旅客の迷惑となるおそれのある者』は拒絶できることになっています(旅客自動車運送事業運輸規則13条3号)。そのため、タクシーの運転手が酒に酔っている客の乗車を断ったとしても、法的責任を問われることはないでしょう。

 そうはいっても、営業上の理由などにより、運転手側が乗車を拒否することは難しいのが現状ではないでしょうか。酔って体調が悪いときは、しばらく休んでから乗車する、乗車中に気分が悪くなったら降車するなど、客側の配慮が求められているように思います」

(オトナンサー編集部)

佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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