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「出生前診断」で“障害”が分かるとは限らない 自閉症児の母が語る子育てのリアル

自閉症を伴う知的障害の息子を育てる女性ライターが、息子の障害が判明したときの状況などについて、解説します。

出生前診断では、発達障害や知的障害の有無が分からない(べっこうあめアマミさん作)
出生前診断では、発達障害や知的障害の有無が分からない(べっこうあめアマミさん作)

 ライター、イラストレーターとして活動するべっこうあめアマミさんは、知的障害を伴う自閉症がある9歳の息子と、きょうだい児(障害や病気を持つ兄弟姉妹がいる子ども)の5歳の娘を育てながら、発達障害や障害児育児に関する記事を執筆しています。

 発達障害や知的障害など、世の中にはさまざまな障害がある人がいますが、それらの障害は出生前診断などで早期に分かるものだと思っていませんか。実は、必ずしもそうとは限らないのです。今回は、息子の障害がいつ頃分かったのかについて、詳しくお伝えします。

「知的障害」「発達障害」は出産前に分からない

「子どもの障害の多くは、生まれる前に検査で分かるのだろう」

「生まれる前には分からなくても、重度の障害なら生まれてすぐに分かるのだろう」

 このように思ったことはありませんか。実は私も、息子と出会う前は類似の考えを持っていました。しかし、それは間違いだったと後で知ることになりました。

 私の息子は、重度の知的障害のほか、発達障害の一つである「自閉スペクトラム症」があり、特別支援学校に通っています。身体障害はありませんが、特別支援学校の小学部3年生になった今でも、ほとんど発語はありません。

 これくらいの障害があるならば、早い段階で分かったのだろうと思われるかもしれませんが、息子に知的障害と発達障害の診断が出たのは4歳のときです。それまでは、「自閉症の疑い」「発達遅滞」と言われる程度でした。

 息子のようなケースはまれだと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。むしろ知的障害や発達障害はその性質上、生まれてからしばらくたたないと、はっきりとは分からないものなのです。

1歳までの息子は「普通」の赤ちゃんだった

 9年前の2014年12月、息子は体のどの部位にも異常がない元気な赤ちゃんとして、この世に生まれました。

 妊娠中もずっと安定していましたし、出産時に大きなトラブルもありません。そして、0歳のときは、医師から発達に関する不安や異常を一切指摘されなかったのです。

 息子に発達の遅れが見られ始めたのは、1歳の頃でした。しかし、病院などで「発達遅滞」とは言われましたが、息子には多動や他害などの目立つ特性がなかったためか、決定的に障害の診断が出ることはありませんでした。

 それでも発達の遅れは不安だったので、病院のほか、発達を促すための教育を行う療育施設に通いましたが、当時は「発達が遅くて不安」という以外に大きな困りごとがなかったのも正直なところです。

 年齢を重ねるにつれ、息子と他のお子さんたちとの差は大きくなっていきましたから、「まったく何もないわけではないだろう」とは思いました。しかし、まさか重度の障害があるとは夢にも思いませんでした。

 もしかすると、知的障害は脳の検査などをすれば分かると思う人もいるかもしれません。しかし、息子は頭部のMRI(磁気共鳴画像法)検査を受けましたが、そのときには何の異常もなかったのです。

 知的障害や発達障害は身体的な検査で分かるものではありませんし、いわゆる定型発達(標準的な発達)のお子さんでも、0~3歳ごろは発達にバラつきがあり、未熟な面が多くて当たり前。そのため、年齢を重ねても発達に遅れや偏りがあったことでようやく、「障害がある」と判断できるものなのです。

出生前診断で分かることは?

 先述のように、発達障害はもちろん、知的障害も、たとえ重度でも生まれてからしばらくたたないと分からないことは多いです。

「出生前診断」という言葉で誤解されがちですが、実は生まれる前に分かる障害というのはごく一部で、ほとんどの障害は分かりません。

 出生前診断で分かるのは、形態異常(見た目で分かる異常)のほか、ダウン症といった染色体異常などです。発達障害は染色体の検査では分かりませんし、すべての知的障害も、出生前診断では分かりません。

 しかし、障害がある子を育てながら世の中の声に耳を傾けていると、「出生前診断でほとんどの障害は分かる」と思っている人があまりに多いことにがくぜんとします。

 そしてこの誤った認識が、「障害者」や「障害児」を人ごとのように思ってしまう原因の一つでもあるのではないかと思うのです。

 実際は、検査で異常がなかったとしても、「障害がある子どもを産まない」と確実に言い切れるわけではありません。誰にでも障害児を育てる可能性はあります。

「どんな子でも育てる」と言うのは簡単だけど…

 時々、「生まれる前から分かっていた」と誤解されることもありますが、障害がある子を育てる親御さんの多くは、最初から障害がある子の親になろうと思ってなったわけではありません。

 私も息子に障害があると分かったときは、ショックでしばらく立ち直れませんでした。身内に障害がある人がいなかったこともあり、「まさか自分の子が」と信じられない気持ちもありました。

 たとえ、「生まれてくる子がどんな状態であっても育てる」と思って妊娠、出産したとしても、実際に自分の子に障害があると知れば、大きなショックを受けます。きれいな言葉を言うのは簡単ですが、現実に直面すると、その壁は限りなく高く、衝撃は計り知れないものなのです。

 それでも私たち親は、自分の子どもをきちんと育て、生活していかなくてはなりません。この世界が、障害がある人にとっても、その家族にとっても、生きやすい環境になっていくことを願ってやみません。

(ライター、イラストレーター べっこうあめアマミ)

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べっこうあめアマミ(べっこうあめあまみ)

ライター、イラストレーター

知的障害を伴う自閉症の息子と「きょうだい児」の娘を育てながら、ライター、電子書籍作家として活動。「ママがしんどくて無理をして、子どもが幸せになれるわけがない」という信念のもと、「障害のある子ども」ではなく「障害児のママ」に軸足をおいた発信をツイッター(https://twitter.com/ariorihaberi_im)などの各種SNSで続けている。障害児育児をテーマにした複数の電子書籍を出版し、Amazonランキング1位を獲得するなど多くの障害児家族に読まれている(https://www.amazon.co.jp/dp/B09BRGSY7M/)。「べっこうあめアマミ」というペンネームは、障害という重くなりがちなテーマについて、多くの人に気軽に触れてもらいたいと願い、夫と相談して、あえて軽めの言葉を選んで付けた。

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