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新聞が読めない高齢者、長期契約で解約できず…「悪質では」「ひどい」と同情の声、法的には?

高齢者の「長期契約」が問題視されています。新聞購読など数年にわたる契約を結んだ結果、視力の悪化や入院など事情が変わっても解約できず、トラブルとなるケースが増えています。

高齢者との長期契約に法的問題は?
高齢者との長期契約に法的問題は?

「新聞を読めなくなった祖母が購読を解約しようとしたら、まだ契約期間中であることや契約時に高額家電を受け取ったことを理由に解約拒否された」

 こうした、高齢者の「長期契約」に関する投稿がSNS上で話題となっています。新聞購読の契約を結んだ高齢者が、「視力が落ちたため読むことが不自由になった」「入院する」など事情が変わり、やむを得ず解約を申し出ても、「○年契約だから解約できない」「渡した景品の代金を現金で支払ってほしい」などと言われ、トラブルとなるケースが多いようです。

 これについて「高齢者に安易に長期契約させるのは悪質では」「泣き寝入りしてしまう人多そう」「視力が悪くなった場合も解約できないのはひどい」「法的問題はないの?」など、さまざまな声が上がっています。

 高齢者の長期契約にまつわる法的問題について、芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

長期契約自体は違法ではない

Q.高齢者と数年にわたる長期契約を結ぶことに法的問題はありますか。

牧野さん「高齢者との長期契約自体が違法とは言えません。『契約自由の原則』があるので、どのような条件でも契約を締結すれば、その期間中は有効であり、勝手に解約することは原則難しいでしょう。

ただし、例外として事業者(企業)と消費者間の契約では、消費者が知識不足により不当な勧誘を受けたり、あるいは、一方的に不利な契約を結ばされたりすることもあることから、一定の場合に、消費者契約法によって消費者が一定の保護を受けることができます」

Q.高額な景品を提供して契約を結ばせることに問題はないのでしょうか。

牧野さん「景品表示法と『公正競争規約』によって景品の価額に上限があります。新聞業における景品類の提供については、景品類の提供にかかる取引価額の100分の8(8%)、または6カ月分の購読料金の8%のいずれか低い金額の範囲とされています(新聞業における景品類の提供の制限に関する公正競争規約第2章 景品類提供の制限 第3条-3イ)。

新聞購読料から算出するとせいぜい2000円前後が上限なので、高価なテレビなどの景品はこの規約違反にあたります。ただし、行政上の指導や命令が当該販売店に行われる可能性はありますが、この規約違反によってただちに罰則が科されるわけではありません。民事上は贈与となり、こちらもただちに契約そのものが法的に無効となるわけではありません」

Q.解約ができるのは、どのような条件やケースですか。

牧野さん「消費者契約法では、契約勧誘時に不適切な行為があった場合、その契約を無効にできます。この不適切な行為には、例えば以下のようなことが該当します。

・契約書には書いていないのに、いつでも負担なく途中解約ができるとうそを告げた。
・途中解約時の高額の違約金を説明せずに契約させた。
・自宅に押しかけて『帰ってくれ』と言ったにもかかわらず帰らなかった。

あるいは、契約書に、事業者の損害賠償の責任を一方的に免除する条項(商品の欠陥について一切責任を負わない、など)や、消費者の利益を一方的に害する条項(事業者が損害賠償責任を全部免除、または一部に制限しているものや、法外なキャンセル料を要求するものなど)があった場合、これらの不当条項が無効となります(第8条~第10条)。ただし、契約締結から1年以内に取り消し手続きを行うことが必要です(第4条)。

なお、自宅での新聞購読の契約締結は訪問販売にあたるので、特定商取引法のクーリングオフの措置を取ることが可能です。この場合、8日以内に内容証明で契約した販売店に解約を通知する必要があります」

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牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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