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「私は奴隷」と悩む親も…自閉症児を育てた母が、わが子の「こだわり」に応じ続けた理由

自閉症の子が持つ「こだわり」に応じていいのかと悩む親は少なくありません。自閉症児を育てた筆者が見据える「応じてやる」ことの先にあるものとは……。

自閉症児の「こだわり」にどこまで応えるか…
自閉症児の「こだわり」にどこまで応えるか…

 自閉症の子を育てていると、さまざまな「こだわり」があり、周りがそれに応じてやらないとパニックを起こしたり、自傷したりして困ることがあります。子育て本著者・講演家であり、知的障害を伴う自閉症児を育ててきた私は、自閉症のこだわりはわがままではないので、応じてやることによって安心・安全を確保してあげた方がいいと思っています。

 しかし一方で、ある人からこんな相談を受けたことがあります。

「自閉症の子を育てている親です。子のこだわりがものすごく、まさに年中無休『子どもは殿さま、私は奴隷』の状態。『同じ道順でないと許してくれない』『同じ時刻に夕飯が出てこないとお皿をひっくり返す』などです。

定型発達の子の『駄々をこねながらの要求』に応じてやれば、次も駄々をこねます。たとえ障害があっても、応じてやることで、こだわりがさらに強化されてしまうのではないでしょうか」

「一番苦しいのは本人なんですから」

 私の息子には食物アレルギーと小児ぜんそくがあり、国立の小児病院のアレルギー科と小児精神科に通院していました。

 アレルギー科の主治医からは、「できるだけ発作を起こさないように、普段からステロイド吸入をしてください」と言われていました。ステロイドと聞いただけで拒否反応を起こしていた私に対して、主治医はこう続けました。

「喉の炎症が残っているとぜんそくが誘発されるので、まず発作を起こさないことが大切です。発作を起こせば起こすほど、ぜんそくは悪化しますから、発作は本人も相当つらいと思いますよ」

 そして、小児精神科の主治医からもこう言われました。

「パニックを起こせば起こすほど、さらにパニックが誘発されてしまいます。だから、こだわりには応じ、安心できる環境を与えてやってください。パニックを起こして一番苦しいのは本人なんですから」

 さらに、こう続けました。

「もしお母さんが、人の履いたスリッパがどうしても履けなかったとしましょう。『履け』と命令されたら、どうですか? それを履いてセミナーに参加して、落ち着いて聞いていられますか? これと同じで、お母さんからすれば『何でこんなことにこだわるんだ』と思うことも、本人にとってはとても耐えがたい嫌なことなのですから、こだわりには応じてあげてください」

 私は、それからは息子が「これだけを着たい」と言えばそれを着せ、同じデザインの靴しか履かなければ、13センチ、14センチ、15センチ…と何足も買って応じていました。

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立石美津子(たていし・みつこ)

子育て本著者・講演家

20年間学習塾を経営。現在は著者・講演家として活動。自閉症スペクトラム支援士。著書は「1人でできる子が育つ『テキトー母さん』のすすめ」(日本実業出版社)、「はずれ先生にあたったとき読む本」(青春出版社)、「子どもも親も幸せになる 発達障害の子の育て方」(すばる舎)、「動画でおぼえちゃうドリル 笑えるひらがな」(小学館)など多数。日本医学ジャーナリスト協会賞(2019年度)で大賞を受賞したノンフィクション作品「発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年」(中央公論新社、小児外科医・松永正訓著)のモデルにもなっている。オフィシャルブログ(http://www.tateishi-mitsuko.com/blog/)、Voicy(https://voicy.jp/channel/4272)。

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