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米裁判で“ニート息子”に退去命令 「面白い裁判」「日本でもやるべきだ」の声、法的に可能?

米国で今年5月、30歳を過ぎても自立しない“ニート息子”に頭を悩ませた両親が、家からの立ち退きを求める裁判を起こし話題となりました。日本でも、自立しない子どもを家から追い出すために法的手段を取れるのでしょうか。

子どもの自立を促すための法的手段は?
子どもの自立を促すための法的手段は?

 米ニューヨーク州シラキュース近郊で今年5月、30歳を過ぎても自立しない息子を家から出そうとした両親が法的手段に訴えたことが話題となりました。

 地元紙によると、両親は「息子が家賃を払わず、家事も手伝わず、両親による自立資金の提供も断って実家に住み続けている」と訴え、同州の裁判所に「息子の実家からの立ち退き」を求めて提訴。郡最高裁の判事は5月22日の公判で、息子に退去を命じました。両親は息子に対し「あなたのような貧弱な職歴の人でさえできる仕事はあります。仕事を見つけなさい。働かなくてはいけません」とコメントを残しました。

 これについて、SNS上では「面白い裁判」「日本でもやるべきだと思う」「日本で同じ訴えを起こしたらどうなるんだろう」などさまざまな声が上がりました。日本でも、自立しない子どもを追い出す法的手段は存在するのでしょうか。グラディアトル法律事務所の刈谷龍太弁護士に聞きました。

成人した子どもに対しても扶養義務がある

Q.同様の裁判を日本で起こすことは可能ですか。

刈谷さん「日本では、一定の関係にある親族は互いに扶養義務を負うことが法律で規定されており、成年した子と親の関係では、扶養義務者が自己の生活に余裕がある限度で要扶助者を扶助すべき義務である『生活扶助義務』(民法877条1項参照)を負うとされています。これに従えば、両親が自己の生活に余裕がある場合、たとえ成年した子であったとしても、その余裕のある限度で、子の生活を扶助しなければなりません。

もっとも、生活扶助義務の具体的内容について法の定めはないため、扶養の程度や方法は子との協議によって決まります。そして、『扶養の程度又は方法について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、扶養権者の需要、扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して、家庭裁判所が、これを定める』(同879条)のです。

本件でいえば、扶養の程度や方法について子と話し合いがまとまらない、またはできない場合、両親は家庭裁判所に調停ないし審判を申し立てられます」

Q.扶養の程度や方法に目安はありますか。

刈谷さん「扶養の程度や方法は、個別の具体的な事情に応じて決定されますが、生活保護の水準が一つの目安になります。扶養の方法には(1)金銭による扶養(2)現物による扶養(衣食住に必要な現物を提供すること)(3)引取による扶養(扶養権利者を同居させつつ現物による扶養を行うこと)があります。生活扶助義務の場合、(1)が原則であり(3)は扶養権利者と扶養義務者の合意があることを条件に認められます。

両親が子の生活扶助義務を負う場合であっても、子と同居する必要はないので、調停ないし審判で決定された金額を子に支給すればよいことになるでしょう。ただし、『住む場所』は生活をしていく上での基本的な事柄でしょうから、仕事もせず生活力のない息子が家を出ていくという結論になることは考えにくいでしょう」

Q.生活費や家賃の請求についてはどうでしょうか。

刈谷さん「生活費や家賃については、それを支払う契約を子と締結していれば可能です。契約は口約束でも認められないことはないですが、調停ないし審判となった際に立証の問題がありますので、書面で取り交わしておくのが無難と言えるでしょう。

そのような契約を締結していない場合は請求できません。そこで、扶養義務の内容を定めるための調停において、本当に働けないのか、働けるとして月にどれくらい稼ぐことができ、どの程度家に収めることができるのかを決めていくことになるでしょう。

子としても、親から扶養義務の内容について調停を起こされれば、親の“本気”を肌で感じ、働かなければと感じてくれるかもしれません。結局、本人が働こうという意思を持たない限り、解決は難しい問題ではないでしょうか」

(ライフスタイルチーム)

刈谷龍太(かりや・りょうた)

弁護士

1983年千葉県生まれ。中央大学法科大学院修了。弁護士登録後、都内で研さんを積み、2014年に新宿で弁護士法人グラディアトル法律事務所(https://www.gladiator.jp/)を創立。代表弁護士として日々の業務に勤しむほか、メディア出演やコラム執筆などをこなす。男女トラブル、労働事件、ネットトラブルなどの依頼のほか、企業法務において活躍。アクティブな性格で事務所を引っ張り、依頼者や事件に合わせた解決策や提案力に定評がある。