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繰り返される頭痛、実は「かみしめ」が原因だった? 歯科医師が解説

かみしめと頭痛の関係性について、歯科医師が解説します。

かみしめと頭痛の関係は?
かみしめと頭痛の関係は?

「以前から頭痛の頻度が高まっている」と感じることはありませんか。頭痛は、肩こりやストレス、カフェインの過剰摂取などが原因で起きるといわれていますが、実は普段のかみしめが原因で生じる可能性も指摘されています。

 かみしめと頭痛にはどのような関係があるのでしょうか。かみ合わせや片頭痛の治療などを行う、りょうきデンタルオフィス(東京都千代田区)の院長、領木治良(りょうき・はるよし)さんに聞きました。

ストレスによるかみしめ癖が原因の可能性も

Q.日常生活で頭痛を感じることがありますが、どのような原因が考えられますか。

領木さん「頭の片側もしくは両側にズキズキとした痛みが生じる『片頭痛』などの慢性頭痛は、意外なことに、その最初の原因に関する統一的な見解はまだありません。

現在、分かっているのは、脳から人間の顔に広がる神経である『三叉(さんさ)神経』に“何らかの刺激”が加わると、神経ペプチドという物質が出されることです。その後、この神経ペプチドが脳の外表面を覆う膜や分布する血管に働くことで、発痛物質が放出され、炎症が起こる可能性が指摘されています。

しかし、“何らかの刺激”の多くは、無意識に行うかみしめ(食いしばり)により、顎を動かす筋肉である、咀嚼(そしゃく)筋が慢性的に緊張した結果、生じる場合が多いのではないかと私は考えています。咀嚼筋が慢性的に緊張すると、上記のような一連のメカニズムを経て頭部にズキズキとした痛みが生じるようになると考えられるのです。

当院では、慢性頭痛に悩む患者さんに、かみしめを緩和させるのにそれぞれ適した形態のマウスピースを装着、調整したところ、約9割の人に頭痛の解消や頭痛の大幅な軽減が認められました。20年以上で約300の症例において、こうした成功事例があります。無意識のかみしめが、頭痛の発生のメカニズムにおける一番最初の段階であることがかなり証明されたのではないかと考えています。

このほか、肩こりは頭痛と同じく、かみしめに伴う上体の姿勢による結果だと考えています。また、パソコンやスマホの使い過ぎが原因で生じやすい眼精疲労は、これらの機器の使い過ぎが原因というよりは、『機器の使い過ぎ』『姿勢』など、さまざまな要因が同時に重なって発生するものだと思われます」

Q.なぜ無意識にかみしめてしまうのでしょうか。

領木さん「ある感情を抱いたときに、無意識のうちに思わず取ってしまう『情動行動』が関係していると考えられます。

例えば、人間が猛獣やヘビを見たときに瞬間的に体がすくむ行為や、犬がうれしいときに尻尾を振る行為などが情動行動に該当します。これは脳の深い位置にある『扁桃(へんとう)体』という部分が現況に関する価値判断を瞬時に下し、その後、間脳に位置する『視床下部』がそれに応じた行動プログラムを提示、実行されることによって成立します。

年齢とともに仕事上の地位が上がり、責任が増していくため、抱えるストレスも増大する傾向にあります。そのため、ノルマや課題などに直面した際に、情動行動としてついかみしめてしまう人が多いと考えられるのです。先述のように、かみしめることが多いと、咀嚼筋が慢性的に緊張するため、それが頭痛へとつながってゆく可能性があります。

いわゆる頭痛持ちの人は、10代から50代の生産年齢層が多く、その分、社会が被る経済的損失は膨大と言えるでしょう。ちなみに、高齢者で慢性頭痛に悩まされる人にはあまり出会ったことはありません。定年前に比べてストレスが少ないことや、歯の磨耗や欠損により、かみしめたときの衝撃が少ないのが要因だと考えられます」

Q.加齢などで頭痛が生じることが多くなった場合、どのように対処すればよいのでしょうか。受診の目安も含めて、教えてください。

領木さん「市販の鎮痛薬を飲んでちょっと横になっていれば痛みが次第に治まるというレベルであれば、しばらく様子を見ても構わないと思います。

ただ、『以前に比べ痛みが次第にひどくなってきた』『頭痛の頻度が高まってきた』という場合は、受診をお勧めします。くも膜下出血などの急性頭痛のケースも考え、脳神経外科などでMRI(磁気共鳴画像法)検査を受けた方がよいと思われます。

MRIで異常がなければ、『頭痛専門の神経内科を受診して効果的な鎮痛薬を処方してもらう』『かみしめを自分の意思でコントロールできるように努める』『頭痛治療用のマウスピースを作製できる歯科で治療を受ける』などの選択肢があるでしょう」

Q.頭痛を放置すると、どのようなリスクが想定されるのでしょうか。

領木さん「頭痛がひどくなると、『朝起床できない』『体を動かすだけで痛みが増す』などの状態となり、会社や学校を頻繁に休まなければならない状況となります。ただし、鎮痛薬の服用回数が増え続けると、かえって頭痛が増悪する『薬物乱用頭痛』という状態に進展する可能性があるので、注意が必要です。先述のように、痛みが気になるようであれば受診をお勧めします」

(オトナンサー編集部)

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領木治良(りょうき・はるよし)

医師(歯科医師)

1994年、鹿児島大学歯学部卒業。2001年まで東京都中央区、千代田区、渋谷区の各歯科医院勤務。2002年にりょうきデンタルオフィス開院。開業以前から独自に、約1500症例のブラキシズム(歯ぎしり・食いしばり)治療を通して、その中でも特に咀嚼(そしゃく)筋の過緊張を徹底的に緩和させることで、これまで内科的アプローチでの対症療法では治癒困難である片頭痛、緊張型頭痛などの一次性頭痛の抜本的治療が可能であることに気付き、完全手作り製作のオーダーメイドスプリント(マウスピース)を用いたやり方で、現在まで300症例のほぼすべてを頭痛再発なしの状態にまで治癒させてきた。りょうきデンタルオフィス(https://www.ryoki-do-tokyo.com/)。

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