温泉入り過ぎ、体にどう影響? 食後に入っても大丈夫? 入浴時の注意点を医師に聞く
1日に何度も温泉に入った場合、体にどのような影響があるのでしょうか。医師に聞きました。

ゴールデンウイーク中に温泉に行こうと考えている人は多いのではないでしょうか。温泉旅館に泊まると、食前、食後といった形で複数回入る人もいるようですが、1日に何度も温泉に入った場合、体にどのような影響があるのでしょうか。TCB東京中央美容外科の総括院長で、心臓血管外科医としての勤務経験もある、寺西宏王(てらにし・ひろお)医師に聞きました。
肌荒れの原因に
Q.そもそも、温泉に入ると医学的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
寺西さん「温泉に入ると、さまざまなメリットがあります。『温泉療法』という言葉があるくらいで、国内には温泉療法に関する学会や専門医制度があります。温泉療法としては、物理的作用、自律神経の正常化作用、化学的作用の3つの作用が広く知られています。
物理的作用とは、人が温泉につかることによって温熱、水圧、浮力などが体に作用することを指します。体が温まることにより体の血管が広がり、新陳代謝が高まって体内の不要物の排せつが促されるほか、体表面への水圧により全身に圧力がかかり、血液やリンパ液の循環も活発になります。さらに、体が軽くなったような感覚(浮力)により筋肉が緩み、リラックスした状態になりやすいです。
自律神経の正常化作用としては、温泉につかることによるリラックス効果や血行促進が、脳や神経への負担を軽減するといわれています。温泉地に出向き、大自然や大浴場に触れることで、苦痛や社会的ストレスなどから解放されるという心理的な作用も大きいと思われます。
化学的作用は、温泉に入っている成分が体内に作用することです。二酸化炭素や塩分、石こう、アルミニウム、硫黄などの成分が11種類に分類されており、アトピーや痔疾、胃腸病、リウマチ、腰痛、神経痛、高血圧症、やけどといった外傷のほか、骨折、精神疾患などへの効果が期待されます。また、美肌効果をうたっている温泉もあります」
Q.1日に何度も温泉に入った場合、体にどのような影響があるのでしょうか。
寺西さん「1日に何度も温泉に入ると体に負担をかけてしまう可能性があるので、一般的にお勧めできません。そのときの健康状態によって異なりますが、複数回入浴する場合でも、1日2~3回を目安にするとよいと思います。
また、体への負担を避けるため長湯は避け、汗が流れたり顔が熱くなったりしたら、すぐに出ましょう。短時間の入浴と、浴槽から出て休憩するのを繰り返す『分割浴』を行うと、心拍数を急上昇させることなく、血行を良くすることができるので負担がかかりにくいです。
また、何度も温泉に入ることは、肌荒れの原因になることもあります。長時間の入浴で肌がだんだんふやけてシワシワになったことがあると思います。これは肌表面の角質が、多量の水分を吸収して膨らんだ状態であり、一時的に肌のバリアー機能が低下し、物質が浸透しやすくなっています。この状態では、水分を保つ働きがある天然保湿因子のほか、皮脂やセラミドなどの細胞間脂質が必要以上に失われて乾燥肌につながります。
温泉の入り方だけでなく温泉の性質も重要で、自身の肌質や肌の状態に合った温泉選びが重要です。例えば、アルカリ泉は皮膚の角質を溶かして滑らかにする効果が期待されることから、美肌の湯として女性に人気があります。しかし、角質が溶け過ぎると乾燥肌の原因になりますし、入浴の際にナイロン製のタオルなどで強くこすると、角質にダメージを与えてしまい、より乾燥肌になりやすいので注意が必要です。
また、高齢の人や乾燥肌の人、光線過敏症などで皮膚粘膜が過敏な人には刺激が強過ぎる可能性があるので、硫黄泉は避けるべきです。
このほか、酸性泉には殺菌や抗菌の作用があり、にきびなどの皮膚感染症への効果が認められていますが、肌のバリアー機能が低下している状態で酸性の強い温泉に入ると、殺菌・抗菌作用が刺激となってかぶれやかゆみが出現しやすくなり、湯かぶれを生じさせることがあります。肌が弱い人が酸性の強い温泉に入った際は、浴場を出る前にシャワーなどで洗い流した方がよいでしょう」
Q.温泉に入るのに最適な時間帯や注意点について、教えてください。
寺西さん「42度以上の熱い湯に入ると交感神経が優位になるため、血圧の上昇や脈拍の増加、筋肉の緊張などが生じます。眠気を感じているときでも体が活動モードに切り替わるため、朝に入るとより効果を実感できるかもしれません。一方、38~41度のぬるめのお湯は、副交感神経を優位にします。血圧や脈拍を低下させるので、寝る前やリラックスしたいときにお勧めです。
食事の直後に温泉に入ると、皮膚の血流が増加する一方、胃腸の血流が低下するため、消化、吸収の働きが悪くなります。食後は30分~1時間の休憩を取ってから入ることをお勧めします。また、運動直後に温泉に入ると筋肉の疲れが取れにくく、心臓への負担も増加するためお勧めできません。運動後に入浴する場合、事前に最低30分の休憩を取るのがよいでしょう。
風邪をひいているときや、体調が優れないときに熱いお湯につかるのは厳禁です。また、飲酒後の温泉には注意が必要で、特に泥酔状態での温泉は、転倒して大けがにつながる可能性があるので非常に危険です。
飲酒後は血管が拡張して一時的に血圧が低下しますが、入浴時にも同様に血管が拡張するため、血圧が低下します。これらが重なることにより、急激に血圧が低下し、ひどいときには目まいや意識消失などが生じて入浴中に溺れるリスクがあります。血圧の低下に加えて、心拍数が増加することにより、不整脈を誘発してしまうこともあり、大変危険です。
このほか、温泉による血行促進により、普段よりも早くアルコールが全身に回ってしまう可能性がありますし、汗をかくことでアルコールの分解に必要な水分が体外に排出され、アルコールの代謝を阻害する可能性もあります。飲酒後に温泉に入るのは、非常に危険なため絶対に控えましょう」
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