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あなたも知らない間にやっているかも!? 今さら聞けない「あおり運転」 該当するケース&刑罰を弁護士が解説!

あおり運転をした場合、どのような法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。弁護士に聞きました。

あおり運転をした場合の法的責任は?
あおり運転をした場合の法的責任は?

 ゴールデンウイーク中に車で帰省したり、観光地に出掛けたりする人は多いと思います。そんなときに気になるのが、他の車の進行を妨害する「あおり運転」です。車を運転中に他の車から不用意に車間距離を詰められたり、急ブレーキを繰り返されたりするなどの被害に遭うケースは、珍しくありません。

 そもそも、どのような運転が、あおり運転に該当する可能性があるのでしょうか。あおり運転をした場合、運転手はどのような法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

3年以下の懲役または50万円以下の罰金

Q.そもそも、どのような運転が「あおり運転」に該当する可能性があるのでしょうか。

佐藤さん「『あおり運転』とは、一般的に『車間距離を詰めて、もっと速く走るよう挑発する』『車体を近づけ幅寄せする』『執拗(しつよう)にハイビームでパッシングする』『執拗にクラクションを鳴らす』『後ろから追い越した後に前方で急停止して進路をふさぐ』などの危険な運転のことを指します。

2020年6月30日から施行された改正道路交通法では、あおり運転を『妨害運転』と位置付け、妨害運転罪が創設されました。妨害運転罪の対象となるあおり運転は、次の10類型です」

(1)対向車線からの接近や逆走(通行区分違反)
(2)不要な急ブレーキ(急ブレーキ禁止違反)
(3)車間距離を詰めて接近(車間距離不保持)
(4)急な進路変更や蛇行運転(進路変更禁止違反)
(5)左車線からの追い越しや無理な追い越し(追い越し違反)
(6)不必要な継続したハイビーム(減光等義務違反)
(7)不必要な反復したクラクション(警音器使用制限違反)
(8)急な加減速や幅寄せ(安全運転義務違反)
(9)高速道路などの本線車道での低速走行(最低速度違反(高速自動車国道))
(10)高速道路などにおける駐停車(高速自動車国道等駐停車違反)

Q.自分ではあおり運転をしていないつもりでも、あおり運転と見なされるケースはあるのでしょうか。

佐藤さん「妨害運転罪は、単に先述の10類型に該当する行為をしただけで、『妨害運転』(あおり運転)として処罰するものではありません。他の車両の通行を妨害する目的で、他の車両などに対して、道路における交通の危険を生じさせる恐れのある方法によるものであることが条件です。つまり、妨害運転罪は、明確に他の車両を妨害した場合に適用されるため、無自覚にあおり運転をしてしまうケースは少ないでしょう。

ただし、自分ではあおっているつもりはないものの、相手はあおられたと感じる可能性はあります。ドライブレコーダーの映像があり、被害を申告されると、運転の状況によっては妨害運転罪に当たる可能性も否定できません。思いやりの精神で安全第一の運転を心掛けることが大切です」

Q.あおり運転をした場合、どのような法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。

佐藤さん「あおり運転をした場合、『3年以下の懲役または50万円以下の罰金』に処せられる可能性があります(道路交通法117条の2の2 1項8号)。また、違反点数は25点であり、免許取り消し(欠格期間2年、前歴や累積点数がある場合は最大5年)になります。

さらに、高速道路で停止させるなど、あおり運転が原因で著しい危険が生じた場合、『5年以下の懲役または100万円以下の罰金』に処せられる可能性があります(道路交通法117条の2 1項4号)。違反点数は35点であり、免許取り消し(欠格期間3年、前歴や累積点数がある場合は最大10年)になります。

このほか、あおり運転により、人を死傷させた場合、『危険運転致死傷罪』にも当たる場合があります(自動車運転死傷行為処罰法2条1項)。危険運転致死傷罪の法定刑は、人を負傷させたケースで『15年以下の懲役』、人を死亡させたケースで『1年以上20年以下の有期懲役』になります」

Q.車の運転中に他のドライバーからあおり運転をされた場合、どのように対処すればよいのでしょうか。

佐藤さん「まず、安全な場所に避難するようにしましょう。事故の危険があるため、道路上に停車することを避け、人目のあるサービスエリアやパーキングエリアなどに移動することが望ましいです。そして、車外に出ずに、110番通報しましょう。同乗者がいる場合は、直ちに同乗者が110番通報するとよいでしょう。

その後、警察が来るまで、ドアをロックし、車内で待つことが大切です。相手が追ってきて挑発してくる可能性もありますが、車外に出るのは危険なのでやめましょう。

あおり運転の被害に遭いにくくするとともに、被害に遭ってしまった場合の証拠を残す意味でも、ドライブレコーダーは有用です。事前にドライブレコーダーを装着し、装着していることを示すステッカーなどを車に貼っておくとよいでしょう」

Q.あおり運転に関する事例、判例について、教えてください。

佐藤さん「2017年に高速道路で一家4人が乗ったワゴン車があおり運転を受け、高速道路上に停車させられた際に、後続車に追突される事故がありました。この事故で両親が亡くなり、2人の子どもがけがをしました。あおり運転をした男は、危険運転致死傷罪などの罪に問われました。

その後の裁判で、弁護側は、被害者は後続車との追突が原因で亡くなったので、被告の運転と事故に因果関係はないとして無罪を主張しました。しかし、裁判所は、被害車両の直前で急減速する妨害運転を4回繰り返し、後続車による追突事故を起こしたとして、危険運転致死傷罪が成立すると認め、懲役18年の判決を下しました。この判決を不服として、被告は控訴しています。

この事件が1つのきっかけとなり、あおり運転が社会問題化し、先述の『妨害運転罪』が創設されるなど、取り締まりの強化につながりました」

(オトナンサー編集部)

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佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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