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「3月13日からマスク不要」と油断しちゃダメ! リスク管理の専門家が警鐘を鳴らすワケ

新型コロナウイルスの感染拡大防止を目的に、マスクの着用が呼び掛けられてきましたが、3月13日から着用の判断が個人に委ねられます。今後の対処法について、リスク管理の専門家が解説します。

3月13日から、マスク着用の判断が個人に委ねられる
3月13日から、マスク着用の判断が個人に委ねられる

 新型コロナウイルスの新規感染者数が減少していることなどを踏まえ、政府は3月13日から、屋外、屋内を問わず、マスクの着用の判断を個人に委ねます。そのため、「3月13日からマスクの着用をやめよう」「マスク着用を個人の判断に委ねられるのは困る」と考えている人も多いのではないでしょうか。こうした考え方について、事故防止や災害リスク軽減に関する心理的研究を行う、近畿大学生物理工学部の島崎敢准教授が警鐘を鳴らします。

新型コロナはある日を境に弱毒化せず

 2023年5月8日から、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)が「重症化リスクや感染力の高い結核、重症急性呼吸器症候群(SARS)」が属する「2類相当」から、「国が感染症の発生動向を調査し、必要な情報を提供することで発生・まん延を防止すべきもの」である「5類」に変わります。これに先立ち、同年3月13日からマスクの扱いも「屋内・屋外問わず個人の判断に委ねることを基本とする」ことになります。

 5類には季節性インフルエンザなどが含まれているので、「新型コロナもインフルエンザと同じになる」「この日を境にいよいよコロナ禍も終わり」といった感覚になっている人も多いことでしょう。また、マスク着用に関して「個人の判断と言われても困る」といった意見も数多く出ています。

 こういった反応を見ると、多くの人が「白黒はっきりつけたい」と感じているのが分かります。タイミングについて「◯日を境に」という議論をしがちですし、リスクの高低も「分類がどのようなものか」という境界線を意識しています。マスク着用の判断も「着けるのか着けないのかはっきりしてほしい」という気持ちが伝わってきます。

 つまり「境目思考」をしているのです。しかし境目思考は、自然の摂理にはあまり合っていないかもしれません。
 
 私たちは大みそかの深夜にカウントダウンをし、年が明けたら一斉に「あけおめメッセージ」を送り、1年の目標を立てたり、おみくじで1年を占ったりします。他にも、季節の変わり目と考えられている節分の日は、鬼を追い払って福を呼び込むために豆をまきます。こうした年や季節の境目とされる日に開かれるイベントは、日本に限らず世界各地に存在します。

 もちろん、これらは季節を彩る素晴らしい文化であって、大切にしていくべきものだと思います。しかし自然の側から人間社会を見たら、こういった人間たちの営みは、少し奇妙に映るのかもしれません。なぜなら、季節はある日を境に劇的に変わるわけではなく、日照時間や気温はゆっくりと変化していくからです。そこには明確な境界線はありません。

 新型コロナもこれと同様です。私たちは境目思考をしがちなので、5月8日から新型コロナが突然取るに足らない病気に変化するような錯覚に陥ります。

 これまで何回かの変異を経て、新型コロナが弱毒化しているのは確かです。ウイルスの変異そのものは境目型の変化ですが、新しいウイルスへの置き換わりは徐々に進むので、新型コロナのリスクはやはり「ある日突然変わるもの」ではなく「徐々に変化するもの」といえるでしょう。

 5月8日に起きることは「新型コロナが、人間の都合で決めた別の分類に変わる」というだけのことです。新型コロナが突然弱毒化したり、感染しにくくなったりするわけではありません。

「日付」ではなく状況に応じた自己判断が重要

 敵が徐々に変化するのなら、同様に対抗策のマスクの着用も徐々に変化させるべきです。マスクは「着けるか着けないか」の2択で「中間」がありませんが、3月13日から一斉に着けるのをやめるのではなく、状況に応じた判断が必要です。

 新型コロナの感染リスクは、他人との距離や人の数、会話の量、換気の状態、自分の免疫の状態(体調)など、さまざまな条件で変化します。この変化は「白か黒か」というはっきりしたものではなく、白と黒の間に薄いグレーや濃いグレーを含むグラデーションの変化です。

 だから、3月13日より前であってもマスクを外しても感染リスクが低い状況はあるし、3月13日より後でも、マスクをした方がよい状況はいくらでもあるのです。

 つまり、新型コロナに対する考え方やマスクの着用判断は境目思考ではなく、「グラデーション思考」で考えるべきものなのです。新型コロナをどう捉えるか、与えられた状況でマスクをするかしないかは、自分の健康や命に関わる判断です。こういった判断を「決めてもらわないと困る」と言って他人に委ねるのは、あまり良いやり方ではなさそうです。

 季節の変わり目に、どんな服を着て出かけようか迷うことがありますが、天気予報などを見て自分で判断することが重要です。ある日を境に一律に夏服に切り替えると、思いがけず寒い思いをすることがあるのです。

 コロナ禍の約3年間、私たちはコロナ前よりもはるかに感染症について詳しくなり、科学的な知識もたくさん身に付いているはずです。ですから、天気予報を見て何を着るか決められるように、その日に出かける場所の状況を考えて、マスクをすべきかどうかも決められるはずです。

 間もなく境目となる日はやってきますが、境目思考ではなく、コロナ禍が教えてくれた知識を生かして、グラデーション思考でアフターコロナの世界に向かいましょう。

(近畿大学生物理工学部准教授 島崎敢)

島崎敢(しまざき・かん)

近畿大学生物理工学部准教授

1976年、東京都練馬区生まれ。静岡県立大学卒業後、大型トラックのドライバーなどで学費をため、早稲田大学大学院に進学し学位を取得。同大助手、助教、国立研究開発法人防災科学技術研究所特別研究員、名古屋大学未来社会創造機構特任准教授を経て、2022年4月から、近畿大学生物理工学部人間環境デザイン学科で准教授を務める。日本交通心理学会が認定する主幹総合交通心理士の他、全ての一種免許と大型二種免許、クレーンや重機など多くの資格を持つ。心理学による事故防止や災害リスク軽減を目指す研究者で、3人の娘の父親。趣味は料理と娘のヘアアレンジ。著書に「心配学〜本当の確率となぜずれる〜」(光文社)などがあり、「アベマプライム」「首都圏情報ネタドリ!」「TVタックル」などメディア出演も多数。博士(人間科学)。

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