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三菱商事が3月に面接解禁…2024年卒「就活」、選考の早期化へ? 専門家が“対処”解説

三菱商事が3月に採用面接を解禁することが明らかとなりましたが、その影響で、大手企業を中心に選考時期を早める可能性があります。これから就職活動に臨む人はどのように対処すればよいのでしょうか。専門家が解説します。

就職活動の選考が早期化する可能性も
就職活動の選考が早期化する可能性も

 政府は、大学生・大学院生を対象とした採用活動に関して、「広報活動」を卒業・修了年度に入る直前の3月1日以降、「採用選考活動」を卒業・修了年度の6月1日以降に行うよう、それぞれ企業側に要請しています。学生が学業に専念し、安心して就職活動に取り組める環境づくりを行うのが狙いです。

 そんな中、三菱商事が3月に採用面接を解禁することが明らかとなり、他企業の動向に注目が集まっています。今後、就職活動はどのように進んでいくのでしょうか。企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた、人事コンサルティング会社「人材研究所」の曽和利光代表が解説します。

超短期決戦となる可能性も

 2023年2月10日、日本経済新聞が、三菱商事が3月から採用面接を実施することを明らかにしたと報じました。同社の記事によると、最終学年を学業に専念したいという声や、部活などで早期から就職活動を始めることが難しいといった学生の事情が多様化していることを踏まえ、2024年度入社から春休み期間の3月と6月の2回に分けて実施を決めたということです。

 これまで同社は、政府要請の「説明会などの広報活動を大学3年の3月、面接など採用選考を大学4年の6月に解禁」を順守してきたため、多くの採用関係者は同社の採用活動の行方を注視しています。

採用スケジュールはどのように決められる?

 というのも、三菱商事は日本屈指の人気企業であり、その動向は多くの企業の採用活動に影響を与えるためです。通常、新卒採用をする企業は、競合となる有力企業の採用スケジュールを踏まえて、自社の採用スケジュールを決めていきます。戦略によって時期を合わせたり、あえてずらしたりと、対応の仕方はさまざまですが、どちらかといえば同じくらいの時期に合わせてくるところが多いです。

 なぜなら、先に採用活動をしても、自社の内定を先に持った学生を有力企業に取られてしまいますし、後に採用活動をしても、自社の欲しい人は既に有力企業から内定を獲得し、就職活動をやめている可能性が高くなるからです。

早期選考は定着していく可能性大

 その結果、多くの企業は、有力企業に合わせて採用スケジュールを組みます。有力企業と同時期に採用活動を行えば、欲しい人材が「すべり止め」として自社を受けてくれますし、早く内定を出すことで「この人はいい人ですよ!」というお墨付きを与えてしまい、有力企業に簡単に発見されてしまうこともないからです。どこの会社の内定を持っているかは、学生の評価に少なからぬ影響を与えます。

 ですから、今回、三菱商事が早期選考を行うことで、同社をライバル視する企業が早期選考に踏み切るでしょう。そして、その企業をまたライバル視する企業が早期選考を始め…と、連鎖的に各企業が早期選考をすることになり、新卒採用選考のピークが3月になる可能性は高くなりました。

開始と同時にいきなりピークが…

 ただ、リクナビやマイナビなどの「メガ就職ナビ」と呼ばれるサイトは、政府の要請通り、3月からの本格的な採用活動解禁に合わせて動いています。そのため、3月がピークになりそうだからといって、早めに受験を始めることはできません。つまり、学生の側から見ると、2023年採用(=2024年卒採用)は、「始まったらいきなりピークがやってくる超短期決戦」となる可能性があるということです。

 特に、大手企業を志望している人にとっては、この特徴が顕著になるのではないでしょうか。3月は大学も春休みなので問題ないかもしれませんが、それでも大変慌ただしい就職活動になりそうです。

「3年生の3月がピーク」にはメリットも多い

 ただ私は、大学3年生の3月(もしくは大学4年の4月初旬あたり)に採用のピークが来ることは悪いことではないと思います。長期休暇期間でもあり、学業に対する影響は軽微でしょう。一定の学生がそこで活動を終えられるなら、最終学年を学業や課外活動に専念することができるのもいいことです。

 何より、超早期選考を行なっている外資系企業やメガベンチャーの内定を持っている学生で、国内の大手企業も受けたい学生へのチャンスが広がります。超早期に採用活動をしている企業の内定をもらっても、3月までは待てても6月までは無理というところもあるからです。これまでは、本当は国内大手も受けたいが、内定を待ってくれないので仕方なく早期採用企業に決めるという人も少なくありませんでした。

人気企業ばかりを受けていると危険

 懸念としては、超短期間で同時に受ける企業数には限界があるために、人気企業にばかり応募が集中するということです。ところが人気企業の合格倍率は軒並み100倍を超えるのが現状ですから、人気企業ばかり受けている学生はあっという間に全滅という事態にもなりかねません。

 それほど極端にはならないと思いますが、他の企業も採用活動を早々と終えていくというようなことになれば、手駒がなくなってしまい、途方に暮れる可能性もあります。そのため、学生は自分が受けることのできる会社の数をきちんと見積もり、合格確率も考えて、人気企業以外の中堅・中小・ベンチャーなども同時に受けていく必要があるのではないかと思います。

スタートでつまずいても焦らない

 もちろん、あまり心配し過ぎる必要はないかもしれません。新卒採用の求人倍率は昨年度で1.6倍程度、「今年はもっと高まるのでは」といわれており、完全に売り手市場(学生が強い市場)です。就職氷河期やリーマンショックの時代のように、「席がない」ということはありません。もし人気企業や大手企業の波に乗れなかったとしても、国内企業の9割以上を占める中小企業を中心に、まだまだ門戸は開いていることでしょう(当社の人材研究所も新卒採用をしています)。

 自分にマッチする企業に出会うまでには時間はかかるかもしれませんが、いつか良い会社は見つかります。今年はスタートダッシュをしつつも、それが終わればじっくりいく、そんな就職活動になるのではないでしょうか。

(人材研究所代表 曽和利光)

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曽和利光(そわ・としみつ)

人材研究所代表

1971年、愛知県豊田市出身。灘高校を経て1990年、京都大学教育学部に入学し、1995年に同学部教育心理学科を卒業。リクルートで人事採用部門を担当し、最終的にはゼネラルマネジャーとして活動した後、オープンハウス、ライフネット生命保険など多様な業界で人事を担当。「組織」「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法を特徴としている。2011年、「人材研究所」を設立し、代表取締役社長に就任。企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を超える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開している。著書に「定着と離職のマネジメント『自ら変わり続ける組織』を実現する人材流動性とは」(ソシム)など。

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