捨てる気はないのに「捨てるよ」 親の矛盾が引き起こす子どもの「ダブルバインド」とは?
親の言動が矛盾しているのにもかかわらず、子どもが親に従わざるをえない状況に追い込まれる「ダブルバインド」。その典型例や子どもへの影響とは、どのようなものでしょうか。

「子どもがなかなか言うことを聞かない」。子育て経験のある親なら、誰しも一度は頭を抱えたことのある瞬間ですが、そんな時、子どもにどんなしつけをしていますか。例えば、おもちゃを散らかしたままにしている子どもに「片付けないなら、全部捨てちゃうよ!」などと、脅すような言葉を使ったことはないでしょうか。しかし実際には、せっかく買い集めたおもちゃを全部捨ててしまうことはないはずです。
このように、親の言動に「矛盾」があるにもかかわらず、子どもがそれを指摘できず、親に従わざるをえない状況に追い込まれることを「ダブルバインド」と呼びます。親にとっては、慌ただしい日々の中の何気無い言動であっても、知らぬ間に子どもを精神的に追い詰めてしまうこともあるようです。親のダブルバインドが子どもに与える影響について、著書に「1人でできる子になる テキトー母さん流 子育てのコツ」(日本実業出版社)などがある、子育て本著者・講演家の立石美津子さんに聞きました。
矛盾した命令が子どものストレスに
Q.そもそも「ダブルバインド」とは何でしょうか。
立石さん「ダブルバインド(二重拘束)は、米国の文化人類学者・精神医学研究者のグレゴリー・ベイトソン氏の造語です。異なる複数の命令を受け取った子どもが、親の矛盾を指摘することもできず、最終的に従わなくてはならない状況に陥ることによって、ストレスをため込むシステムが作られるコミュニケーションパターンを指します。同氏は『家庭内コミュニケーションがダブルバインド・パターンである場合、その状況に置かれた人は統合失調症に似た症状を示すようになる』とまで主張しています。
ダブルバインドによって、統合失調症を発症するわけではありませんが、親から一貫性のない指示を受けた子どもは『自分はどうしたらいいの』と混乱します。矛盾した命令によって子どもは心理的にコントロールされ、不安に陥ってしまうのです」
Q.日常におけるダブルバインドの具体例はありますか。
立石さん「例えば、子どもが公園でいつまでも遊んでいて帰ろうとしなかったとします。『もう帰るよ』と声をかけても『嫌だ!もっと遊びたい!』とわがままを言った時、『じゃあ、ママは帰るから勝手にしなさい!バイバイ!』と言いながらも帰らない。こんなしつけ方をした経験はないでしょうか。
この場合、親はもともと本気で置いて帰るつもりはなく、『先に帰ると言えば子どもはついてくるだろう』『子どもは一人で帰ることができないから、従わざるをえないだろう』と見越した上で“脅して”いるわけです。しかし、もし子どもが『勝手にしなさい』という言葉を字面通りに受け取り、そのまま遊び続けたとしたら、どうでしょう。『勝手にしなさい』と言っておきながらも、結局は『いい加減にしなさい!もう帰るの!』と怒り、手を無理やり引っ張って帰るのではないでしょうか。
子どもにとっては、見捨てられることも罰ですし、親の『勝手にしなさい』に従ったのに結局怒られることも罰です。どちらの命令に従っても罰せられると感じて、子どもは混乱し、ストレスをためてしまうのです」
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