【いまさら聞けない法令用語】「脅迫罪」「恐喝罪」「強要罪」はどう違う? 弁護士が解説
ニュースや新聞でよく見聞きするものの、実はよく分かっていない法令関連用語について、弁護士に聞いてみました。
事件に関する報道で、しばしば聞かれる罪名の一つに「脅迫罪」があります。一方、意味合いが近いイメージのある「恐喝罪」「強要罪」という罪名もあります。これら3つはそれぞれどんな犯罪で、どういった違いがあるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。
最も罪が重いのは「恐喝罪」
Q.まず、「脅迫罪」という罪名について教えてください。
佐藤さん「『脅迫罪』とは、相手またはその親族の生命、身体、自由、名誉または財産に対し、害を加える旨を告知する犯罪です(刑法222条)。害悪の告知は、一般に、人に恐怖を感じさせる程度であることが必要です。その程度であるかどうかは、脅迫文言だけでなく、脅迫した時間帯や場所などの状況、相手の年齢・体格・職業、相手との関係性なども踏まえ、客観的に判断されます。
例えば、人気の少ない夜道で、初対面の女性に対して『おとなしくしろ、殴るぞ』『恥ずかしい思いをさせてやる』などと言えば、脅迫罪に問われる可能性があります。一方、仲良し同士で遊んでいる最中に、冗談まじりに『おとなしくしろ、殴るぞ』『恥ずかしい思いをさせてやる』などと言ったとしても、怖がらせる程度の脅迫ではないとして、罪に問われない可能性が高いです。なお、客観的に、恐怖を感じさせる程度の害悪の告知があれば、結果的に相手が怖がらなかったとしても、脅迫罪は成立します。
また、脅迫罪は、相手に直接口頭で害悪を告知する場合だけでなく、手紙や電話、メール、SNSなどを利用して害悪を告知した場合でも成立する可能性があります。法定刑は、『2年以下の懲役または30万円以下の罰金』です」
Q.次に、「恐喝罪」とは。
佐藤さん「『恐喝罪』とは、お金などを脅し取るために、人に暴行を加えたり、脅迫したりして相手を怖がらせ、お金などを差し出させる犯罪です(刑法249条)。『殴られたくなければ、明日までに10万円持ってこい』などと言ってお金を脅し取ろうとする、いわゆる『かつあげ』行為が恐喝罪にあたると考えてよいでしょう。法定刑は『10年以下の懲役』です。
恐喝罪においては、『自分からお金などを差し出させる程度に怖がらせること』が必要であり、例えば、拳銃を突き付けるなど、相手が全く抵抗できないほどの暴行や脅迫を加えれば、恐喝罪ではなく『強盗罪』の問題になります。
なお、暴行や脅迫したものの相手が怖がらなかったり、お金を差し出さなかったりした場合、『恐喝未遂罪』に問われることがあります(刑法250条)」
Q.最後に、「強要罪」とは。
佐藤さん「『強要罪』とは、相手または親族の生命、身体、自由、名誉もしくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、または相手に暴行を用いて、義務のないことを行わせたり、権利の行使を妨害したりする犯罪です(刑法223条1項、2項)。法定刑は『3年以下の懲役』です。
例えば、被害者の裸の写真などを入手して、『この写真をばらまかれたくなければ、自分と会ってくれ』などと言って、相手の意思に反して無理やり面会させたような場合、強要罪に問われる可能性があります。
なお、脅迫または暴行をしたものの、相手が屈することなく、要求に従わなかった場合には『強要未遂罪』に問われることがあります(刑法223条3項)」
Q.つまり、「脅迫罪」「恐喝罪」「強要罪」の違いとは。
佐藤さん「『脅迫罪』は害悪の告知を罰するものです。脅迫や暴行を手段にして、お金などを差し出させるのが『恐喝罪』、義務のないことを行わせたり、権利行使を妨害したりするのが『強要罪』です。
『脅迫罪』には未遂を罰する規定がありませんが、『恐喝罪』『強要罪』には未遂を罰する規定があり、それぞれお金を差し出させたり、義務のないことを行わせたりできなくても、脅迫や暴行をすれば未遂として処罰される可能性があります。
罪の重さを比較すると、最も重いのが『恐喝罪』、次が『強要罪』、最後が『脅迫罪』になります。恐喝罪は財産権を侵害する点で、強要罪は自由な意思を侵害する点で、それぞれ脅迫罪よりも悪質な行為であることから、脅迫罪に比べ、法定刑が重くなっていると考えられます」
Q.「脅迫罪」「恐喝罪」「強要罪」の3つについて、特徴的な過去の事例を教えてください。
佐藤さん「これら3つにはそれぞれ、次のような事例があります」
【脅迫罪】
飲食店で、店員に対して激高し、「おまえを殺すこともできるんだぞ」「ぶっ殺すぞ」などと怒号して脅迫した事例があります。脅迫と別に、店員の頭に酒をかける暴行も行っており、懲役8カ月、執行猶予3年(保護観察付)の判決が下されました。
【恐喝罪】
路上で相手の顔面を殴り、「ネックレスが壊れた」などと因縁をつけ、金品を要求し、財布や高価なベルトを差し出させた事例があります。この事案では懲役2年、執行猶予4年の判決が下っています。
【強要罪】
未遂ではありますが、元交際相手の被害女性に対し、裸の写真を所持していたことを利用して脅迫し、面会するよう要求した事例があります。被害者は、被告の謝罪を受け入れるも、一定の処罰を求める意向があり、懲役1年、執行猶予3年(保護観察付き)の判決が下されました。
(オトナンサー編集部)
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