糖質制限ダイエットには認知症などのリスク? 「バランスが大事」などの声も、医師に聞く
ダイエット法の一つとして確立した感のある「糖質制限ダイエット」。減量の成果が出やすく、経験者が増える一方で、認知症や老化を招くという声もあります。結局のところ、糖質制限ダイエットは良いのでしょうか、悪いのでしょうか。
ご飯、うどんといった炭水化物の摂取を減らすることで糖質を制限し、体重を減らす「糖質制限ダイエット」。いまや、ダイエット法の一つとしてすっかり定着した感がありますが、体験者が増える中で、「脳に栄養がいかなくなる」「長く続けると老化を招く」「認知症のリスクが上がる」など、そのリスクに警鐘を鳴らす声も多く聞かれるようになりました。健康診断時、糖質制限ダイエットをやめるように医師から指示されたケースもあるようです。
これについて、SNS上などでは「医師の指導なしにやっちゃいけないって聞いた」「結局バランスが大事」など、さまざまな声が上がっていますが、実際のところはどうなのでしょうか。オトナンサー編集部では、医師の市原由美江さんに聞きました。
炭水化物は脳の唯一のエネルギー源
Q.炭水化物(糖質)が人間の脳や体にもたらす作用・効果について教えてください。
市原さん「食事に含まれる3大栄養素には『炭水化物』『タンパク質』『脂質』があります。どれも体のエネルギー源として必要ですが、炭水化物は人間の脳にとって唯一のエネルギー源です。炭水化物は糖質と食物繊維を合わせたもので、このうち糖質は、ブドウ糖や果糖などの単糖類、砂糖や乳糖などの二糖類を指す『糖類』と、デンプンなどの『多糖類』を合わせたものです。糖質のカロリーは1グラム当たり4キロカロリーです。なお、食物繊維は消化・吸収されないのでカロリーはほとんどなく、食後の血糖値を下げる効果や整腸作用があります。
糖質は消化され、ブドウ糖や果糖などの単糖類となって小腸から吸収されます。吸収された単糖類は肝臓ですべてブドウ糖に変換され、一部はグリコーゲンとして肝臓に蓄えられ、残りは血液中に放出されます。これが筋肉や脳のエネルギー源となります」
Q.糖質制限によって認知症(物忘れ)になるのは事実でしょうか。糖質を制限することで、人間の脳や体にどのような変化・異常が起こりますか。
市原さん「認知症には『アルツハイマー型認知症』や『血管性認知症』などがあります。血管性認知症は糖尿病や高血圧、脂質異常症、喫煙などによる動脈硬化が原因で起こります。炭水化物制限をすると、自然とおかずを多く摂取するため、塩分や脂質を過剰に摂取することになります。すると、これらの動脈硬化を促してしまう病気にかかりやすくなり、血管性認知症のリスクを高めることになります。逆に、炭水化物を取り過ぎても、肥満による糖尿病や高血圧になる可能性が高くなるため、結果として血管性認知症のリスクは高まります。つまり、バランスの良い食事を取ることが大切です。
厚生労働省が発表している日本人の食事摂取基準は、食事の総エネルギー量の50~65%を糖質で摂取することを推奨しています。もちろん、身長や身体活動量、基礎代謝など個々で必要なエネルギー量は異なるため、一概には言えませんが、例えば30~40代女性でデスクワークの場合、推奨されるエネルギー必要量は1750キロカロリー、60%を糖質から取るとすると1050キロカロリー、糖質1グラム当たり4キロカロリーなので約260グラムの糖質が必要になります。なお、ご飯1膳(150グラム)に含まれる糖質量が約55グラムです。
また、極端に糖質を制限すると、体は糖質の代わりに脂肪を栄養源として分解するため、肝臓で『ケトン体』という物質が多く作られ、血液中のケトン体が増加します。血液中のケトン体が多くなると、吐き気や倦怠感、頭がボーッとするなどの症状が出るとされており、実際に、糖質制限ダイエットを開始してこのような症状を訴える方は多いです。特に、もともと糖尿病があってインスリン分泌が低下している場合、ケトン体の代謝が正常に働かないことがあるため、血液が酸性に傾くことにより、嘔気(おうき)や嘔吐(おうと)、倦怠感、さらには意識障害を起こす『ケトアシドーシス』という病態になることがあります」
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