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妊婦が「重い物を持たない方がいい」理由は? どんなリスクがある? 産婦人科医に聞いた

妊娠中の女性が「重い物」を持つことで、母体や胎児に影響があるようです。どのようなリスクが潜んでいるのか、産婦人科医が解説します。

妊婦が「重い物」を持つリスクとは…
妊婦が「重い物」を持つリスクとは…

 10月に第一子の妊娠を公表した、元サッカー女子日本代表でタレントの丸山桂里奈さん。10月半ば、腹痛と片頭痛により番組出演をキャンセルした際、腹痛の原因は「重い物を持ってしまうこと」だと医師に指摘を受けたことを自身のブログで明かしました。医師からは、「アスリートは重さが分からなくなっている」ため、重い物を軽いと思ってしまうとも言われたといい、「とにかく荷物は持たないように」との助言を受けたとのことです。

 これについて、「やっぱり、妊婦さんが重い物を持つのはよくないんですね」「妊娠中は、できると思っていることが意外と大きな負担になるよね」「私もつい、重い荷物を持ってしまっていた」という体験談や、「男性に知っておいてほしい」「職場でも周知してほしい」など、周囲への理解を求める声も聞かれます。

 妊娠中の女性が「重い物」を持つことには、どんなリスクが潜んでいるのでしょうか。産婦人科医の尾西芳子さんに聞きました。

早産や流産のリスクが上昇

Q.妊娠中の女性が、重い物や荷物などを持たない方がよいのはなぜですか。

尾西さん「重い物を持つと、体全体に力が入ります。腹筋などにも力が入るため、妊婦さんの場合は子宮が圧迫され、子宮の収縮が誘発されることで、赤ちゃんに子宮から押し出される力が加わり、早産や流産のリスクが高くなります。ただし、全ての妊婦さんが『重い荷物を持つ=即、流産のリスクにつながる』ということではなく、特に妊娠初期はまだ子宮が小さいため、あまり影響はありません。

丸山さんの詳しい状況は分かりませんが、腹痛の他に頭痛もあるような場合には『妊娠高血圧症候群』の可能性も考え、より安静にすることが必要になるケースもあります。

妊娠高血圧症候群は、妊娠中に母体の血圧が上昇し、腎臓機能に異常が出て尿にタンパクが混じったり、けいれん発作や脳出血、肝機能障害などを引き起こしたりする状態です。赤ちゃんの発育が悪くなったり、胎盤が子宮の壁からはがれて酸素が届かなくなり、場合によっては赤ちゃんが亡くなってしまったりと、お母さんと赤ちゃんが共に大変危険な状態となるケースがあります。妊娠高血圧症候群の場合は、重い荷物を持つことなどにより血圧が上昇しやすくなるため、絶対に避けないといけません。

その他、体への影響として、ただでさえ赤ちゃんや羊水の重さで脚に負担がかかっているところに重い物を持つことで、過剰な負担がふくらはぎにかかるため、脚がつりやすくなるといったこともあります」

Q.重い物を持ったことによる体調不良に対し、どのような治療が行われるのでしょうか。

尾西さん「実際におなかが張る、子宮の入り口が短くなるなど、子宮の収縮兆候が見られて『切迫早産』と診断された場合、軽度のケースは自宅安静で済むこともありますが、入院による点滴加療になることもあります」

Q.特に、重い物を持つことを控えた方がよい時期はありますか。

尾西さん「赤ちゃんが大きくなる妊娠後期(8カ月以降)は、特に注意が必要です。もともと、赤ちゃんが大きくなることで子宮が収縮しやすかったり、子宮の入り口が開きやすくなったりしているためです。ただし、それ以前からおなかが張っている場合や、子宮の入り口が短いといわれている人は、より早期から気を付ける必要があります」

Q.もし、妊娠中にうっかり重い物を持ってしまったら、どうすればよいですか。

尾西さん「妊娠初期に多少重い物を持ってしまっても、あまり心配することはありません。中期以降で重い荷物を持った後に『腹痛がある』『おなかが張った感じがある』『出血がある』といった場合は、念のため受診しましょう。また、寝る前にしっかりお風呂でふくらはぎをもむ、ストレッチをするなど、脚の負担を軽減するケアも忘れずに行いましょう」

Q.「妊婦さんが重い物を持つリスク」について、「男性に知っておいてほしい」「職場でも周知してほしい」と感じている人が多いようです。

尾西さん「妊娠中、赤ちゃんは少しずつ大きくなるので、あまりその重さに気付かず、妊娠前と同じように過ごしている妊婦さんも多いと思います。また、いつもと同じように過ごしているとつい、普段通りの仕事や家事を期待してしまう周囲の人もいると思います。

ただ、赤ちゃんと羊水、胎盤などの重量は、妊婦さんの体にとってはかなりの重さです。子宮にも脚にも負担になり、血圧上昇にもつながります。既に『赤ちゃん』という“大切な重いもの”を持っていることを、妊婦さんも周囲の人も忘れずに過ごしていただきたいです」

(オトナンサー編集部)

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尾西芳子(おにし・よしこ)

産婦人科医(神谷町WGレディースクリニック院長)

2005年神戸大学国際文化学部卒業、山口大学医学部学士編入学。2009年山口大学医学部卒業。東京慈恵会医科大学附属病院研修医、日本赤十字社医療センター産婦人科、済生会中津病院産婦人科などを経て、現在は「どんな小さな不調でも相談に来てほしい」と、女性の全ての悩みに応えられるかかりつけ医として、都内の産婦人科クリニックに勤務。産科・婦人科医の立場から、働く女性や管理職の男性に向けた企業研修を行っているほか、モデル経験があり、美と健康に関する知識も豊富。日本産科婦人科学会会員、日本女性医学学会会員、日本産婦人科乳腺学会会員。オフィシャルブログ(http://ameblo.jp/yoshiko-onishi/)。

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