ソウル150人超死亡事故、「圧死」「外傷性窒息」とは? 満員電車でも起きる? 医師が解説
韓国・ソウルの繁華街、梨泰院で起きた事故で、死因とみられる「圧死」「外傷性窒息死」とはどういう亡くなり方なのでしょうか。
韓国・ソウルの繁華街、梨泰院(イテウォン)で10月29日に150人以上が死亡する事故がありました。幅の狭い坂道で転倒し、多くの人が「圧死」したとみられるとの報道があります。また、「外傷性窒息」によって亡くなったとの報道もあります。そもそも「圧死」「外傷性窒息死」とはどういう亡くなり方で、満員電車のような混雑の中で起きる心配はないのでしょうか。法医学分野の博士号を持つ形成外科医の高田女里さんに聞きました。
圧迫されて窒息死
Q.そもそも「圧死」「外傷性窒息死」とは、どういう亡くなり方なのでしょうか。
高田さん「圧死とは、胸部・腹部が圧迫されるなどして、『胸郭』という部分が固定され、それにより呼吸運動が障害されて起こる窒息死のことをいい、『外傷性窒息死』ともいいます。胸郭とは、肋骨(ろっこつ)や胸骨などで覆われた部分で、肺や心臓などを保護する役割を持ちます。
私たちは日々呼吸をしていますが、その大きな役割を果たしているのはもちろん『肺』です。ただし肺だけではなく、胸と腹の間にある『横隔膜』という筋肉や、肋骨と肋骨の間にある『肋間筋(ろっかんきん)』が動くことによって呼吸をサポートしています。
機械や家具などによって圧迫されたり、今回の群衆事故のように多くの人が密集したりして、それらの動きが制限され肺の動きが妨げられると、呼吸ができなくなり、死に至ることがあるのです。
また、胸が圧迫されることにより全身を循環している血液が心臓に戻れなくなり、心停止を起こすことも死因の一つとされます」
Q.圧死が起きるのは、どのような場合が多いのでしょうか。
高田さん「今回の事件で大半の人が思い出したのは『明石花火大会歩道橋事故』や『阪神淡路大震災』ではないでしょうか。阪神淡路大震災で亡くなった人の多くは、家具などの下敷きになり圧死してしまったとのことでした。他には大型のプレス機に挟まれての圧死や、砂場に作られた落とし穴に落ちてしまい、上から落ちてきた砂で覆われることで圧死したという事件があります。
1954年に発生した『二重橋事件』では、皇居の一般参賀に訪れた人たちが折り重なって倒れる群衆事故が発生し、死者16人、重軽傷者65人を出したといわれています。1996年に発生した『豊浜トンネル岩盤崩落事故』では、死因は全員がれきに押しつぶされた圧死だったとのことです。
2010年3月には『人気タレントが来ている』といううわさが広まり、東京・原宿の竹下通り商店街の入り口付近に大勢の若者が殺到し、10代の女性3人が病院で手当てを受ける事故が起きています」
Q.満員電車で圧死や、圧死に近い状態が起きる恐れはないのでしょうか。
高田さん「満員電車でも圧死やそれに近い状態が起きる可能性はあります。転倒した人の上に人が乗ることにより圧死は生じることがあるので、特に背の低い子どもや、肋骨の強度が弱い女性などが転倒した際に、上に人が乗れば圧死の危険性は高いです。
電車に乗り降りする際や、急ブレーキで転倒の危険性が高い時には特に注意が必要です。
ただ、電車の場合には緊急時を知らせるSOSボタンの設置もありますし、駅には駅員がいるので、圧死の危険があるような非常事態の際には救助を要請しましょう」
Q.圧死しそうな状況のときに、身を守る方法があれば教えてください。
高田さん「胸の前に肘を突き出した状態で腕を組むことで、空間をつくるようにすると圧死を防げる可能性があります。それができない場合には、バッグなどを胸の上の方で抱えるようにすると、スペースを確保できます。また、群衆事故は転倒がきっかけとなり生じることから、何かつかまるものがあれば、つかまって転倒を防ぐなどの対策が重要となるでしょう」
(オトナンサー編集部)
コメント