【いまさら聞けない法令用語】「心神喪失」と「心神耗弱」はどう違う? 弁護士が解説
ニュースや新聞でよく見聞きするものの、実はよく分かっていない法令関連用語について、弁護士に聞いてみました。
殺人や強盗など凶悪事件の報道で、しばしば聞かれる法令用語の一つに「心神喪失」がありますが、よく似た用語として「心神耗弱」という言葉もあります。この両者にはどんな意味と違いがあるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。
心神喪失の場合は「無罪」に
Q.まず、「心神喪失」という言葉の意味について教えてください。
佐藤さん「『心神喪失』とは、精神障害のせいで善悪の判断が全くつかない状態、または、善悪の判断はできたとしても、その判断に従って自分の行動を制御することが全くできない状態を指します。
心神喪失と認められるのは、重い精神疾患を患っており、日常生活にも支障があるようなケースが典型的です。その他、アルコールによる泥酔状態や催眠状態など、精神の一時的な異常に基づき、心神喪失になることもあります」
Q.次に、「心神耗弱」とは。
佐藤さん「『心神耗弱』とは精神障害のせいで、善悪を判断する力や、その判断に従って自分の行動を制御する力が著しく劣っている状態を指します。心神喪失と同様に、泥酔状態や催眠状態など、一時的な心神耗弱もあり得ます」
Q.「心神喪失」と「心神耗弱」の違いとは何でしょうか。
佐藤さん「『心神喪失』と『心神耗弱』の違いは、善悪を判断する力や、その判断に従って自分の行動を制御する力の『差』になります。『心神喪失』はそうした能力が全くない状態であるのに対し、『心神耗弱』はそうした能力が少しはあるものの、著しく劣っている状態です。
例えば、赤ちゃんが他人の物を壊してしまった場合、赤ちゃんの刑事責任を問うことはできません。赤ちゃんは悪いことだと分からず、犯罪とされている行為をしてしまったのであり、非難することができず、刑事責任がないからです。刑法は『14歳に満たない者の行為は罰しない』とし、刑事責任を問うことができない年齢について定めています(刑法41条)。
同様に『心神喪失』の場合も、悪いことだと分からずに、または、行動を制御できずにした行為なので、刑事責任を問うことはできません。『心神耗弱』の場合は、完全な刑事責任を問うことはできず、限定的に刑事責任を問うことになります」
Q.「心神喪失」と「心神耗弱」はそれぞれ、実際の刑にどのような影響を及ぼし得るのでしょうか。
佐藤さん「『心神喪失』の場合、無罪となり、刑罰は科されません(刑法39条1項)。一方、『心神耗弱』の場合、刑は必ず減軽されます(刑法39条2項)」
Q.罪を犯した人が「心神喪失」あるいは「心神耗弱」と判断された場合、その後、どうなるのですか。
佐藤さん「殺人、放火、強盗など、一定の重大な他害行為をなし、『心神喪失』や『心神耗弱』と判断され、不起訴処分や無罪、刑の減軽を受けた人(実刑になる人を除く)は、『医療観察制度』の対象になります。
検察官から裁判所に適切な処遇の決定を求める申し立てがなされ、裁判所は、精神科医による鑑定の結果や生活環境なども考慮して、入院決定や通院決定などをします。
入院決定を受けた人は、『指定入院医療機関』で専門的な医療を受けることになり、その間、保護観察所は退院後の生活環境の調整を行います。一方、通院決定を受けた人や退院を許可された人については、原則3年間、『指定通院医療機関』で医療を受け、保護観察所による精神保健観察に付され、生活状況などの見守りが続けられます」
(オトナンサー編集部)
コメント