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悪意のある投稿で「すっとする」10~20代が増加…若者はなぜ相手を中傷し続けるのか

ネット上に悪意のある投稿をして「すっとした」と感じる若者が増えていることがわかりました。顔の見えない相手を誹謗中傷してすっきりする若者の心理、そして、そんな若者が増えている背景とは。

悪意のある投稿で「すっとする」若者が増加
悪意のある投稿で「すっとする」若者が増加

 インターネット上の「投稿」に関する調査結果が先日、SNS上などで話題になりました。情報処理推進機構(IPA)が公開した「2017年度情報セキュリティに対する意識調査」によると、インターネット上に投稿した経験のある人のうち、「悪意のある投稿」をしたことがある人が22.6%。投稿後の心理は「気が済んだ、すっとした」が最多(35.6%)で、前年比4.3%増。特に10~20代で他世代より高い傾向が見られたといいます。投稿理由としては「人の意見に反論したかった」などが上位を占めています。

 顔の見えない相手を誹謗中傷して「すっとする」心理や、そういった若者が増えている背景とはどのようなものでしょうか。家族や教育、子どもの問題に詳しい、作家でジャーナリストの石川結貴さんに聞きました。

正義感からくる「自覚のない悪意」も

Q.人が悪意のある投稿をする心理や背景とはどのようなものでしょうか。

石川さん「一口に悪意のある投稿と言っても、投稿する人の心理や背景はさまざまです。一部には、過激な発言で注目を浴びたかったり、誰かが傷つくことに快感を覚えたりする人もいるでしょう。ストレスがたまっていてうっぷんを晴らしたいなど、他人を見下すことで自分のプライドを満足させるような場合もあるかもしれません。

さまざまな背景が考えられる中で一つ取り上げたいのは『自覚のない悪意』です。本人は悪意とは思っておらず、それどころか『正しいことをしている』『自分を守るためにやっている』と感じていることがあります。人は誰でも、思想や価値観、生活スタイルなどに『自分基準』を持っています。自分にとっての正しさや常識があり、それに基づいて他者を判断しがちです。たとえば、高齢の親が未婚の子どもに対し『結婚できないヤツはダメな人間』『お前はクズだ』などひどい言葉を投げつけることがあります。『結婚=常識』と考える親にとっては未婚の子どもが許せず、何とか自分の基準に従わせたいのです。

このように、現実生活でも、私たちはそれぞれ違う自分基準を持ちながら他者と関わっていますが、インターネット上ではさらに多様な人の自分基準が集まります。当然、意見の食い違いや価値観の相違が出てきますが、そんな時、自分の常識が通じない相手に対し『正しいことを教えてやりたい』という気持ちが強くなることがあります。意識調査の結果でも、悪意のある投稿をした理由の上位が『人の意見に反論したかった』とありますが、まさに自分の常識や正しさを教えたい、という気持ちの表れと言えるでしょう。

しかし、相手には相手の自分基準がありますから、すんなり受け入れてくれるとは限りません。今度は自分が反論されたり、全否定されるようなこともあるわけです。自分の基準に従わせたいのにうまくいかない怒りや、自分を否定してくる相手に対する憎しみといった感情が高じた結果、罵詈雑言や誹謗中傷といった、悪意のある投稿に結びつくことがあります。

また、人は他者とのコミュニケーションの際、互いの表情や仕草、声のトーンなどから多くの情報を得ています。たとえば、リアルで誰かにひどいことを言った時、相手のこわばった顔を見て『あ、言い過ぎた』と気づく場合がありますが、ネット上ではそういうことができません。視覚や聴覚などから得られる情報がない中、言葉だけの応酬になるため、なおさら歯止めがきかないのです。『相手に勝ちたい』『屈服させたい』という気持ちがある一方、ネット上で使える手段は言葉だけですから、結局、罵詈雑言を浴びせるような方法を選んでしまうことになります」

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石川結貴(いしかわ・ゆうき)

ジャーナリスト

家族・教育問題、児童虐待、青少年のインターネット利用などをテーマに豊富な取材実績を持つ。ネット、スマホの利便性の背後にある問題に追った著書「スマホ廃人」(文春新書)は、国公立大学入試問題に採用されている。2020年から共同通信社の配信により、全国の地方新聞で「スマホ世代の子どもたち~大人の知らない最新事情」を連載。テレビ出演や全国各地での講演会など幅広く活動する。その他の著書は「子どもとスマホ」(花伝社)「ルポ 居所不明児童」(筑摩書房)など多数。

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