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将来不安で「お金を使うのが怖い」26歳ひきこもり長男が親亡き後に備え、無理なく貯金するには?

ひきこもりの人が親亡き後の生活に備えるには、毎月、どの程度、貯金すればよいのでしょうか。適正な貯蓄額を知る方法について、専門家が解説します。

ひきこもりの人が無理のない範囲で貯蓄をするには?
ひきこもりの人が無理のない範囲で貯蓄をするには?

 ひきこもりのお子さんの中には障害年金を受給しており、年金収入の一部を親亡き後の生活に備えて貯蓄しているケースがあります。しかし、毎月の貯蓄額が行き過ぎてしまうと、それはそれで少し問題があるのかもしれません。適正な貯蓄額を知るには、どうしたらよいのでしょうか。

20歳ごろに心療内科受診

 筆者の元に相談に訪れた母親(55)は、ひきこもりの長男(26)のことについて語り始めました。長男は少しおっとりしていたこともあり、小学校や中学校でいじめを受けてしまいました。勉強も得意な方ではなく、宿題がきちんと終わらなかったり、提出物が期限に間に合わなかったりして、先生に叱られることも多かったそうです。

 それでも何とか大学に進学しましたが、友人はできず、教授にたびたび嫌味を言われてしまうこともあり、1年足らずで退学してしまいました。退学後はいくつかアルバイトをしてみましたが、いずれも人間関係がうまくいかず、長続きしなかったそうです。

 そのような経験が積み重なったためか、長男はすっかり自信をなくしてしまいました。そして20歳ごろに抑うつがひどくなってしまったため、心療内科を受診しました。

 長男は今のところ就労することができず、障害基礎年金の2級を受給しています。収入は、障害基礎年金の2級と障害年金生活者支援給付金で月額約7万円です。長男は月に1回心療内科に通院しており、通院費や薬代、交通費は長男が自分で支払っています。長男はそれ以外にお金を使おうとせず、残りは貯蓄しているそうです。その貯蓄額は約300万円とのことでした。

 母親も、将来に備えて貯蓄することは否定していません。しかし、長男はまだ20代と若いので、母親は「もう少し自分の楽しみのためにお金を使ってもよいのでは」と思っています。そこで長男にそのように伝えてみたところ、長男からは「一体いくらまで使ってよいのかが分からない。だから怖くて使えない」という答えが返ってきたそうです。その一方で、長男も少しはお金を使いたい気持ちもあるようでした。

 そこまで語った母親は、筆者に質問をしました。

「長男はいくらまでお金を使ってもよいのか。何か目安になる金額はあるのでしょうか」

「そうですね。将来の大まかな見通しを立てることで、目安となる金額を割り出すことはできます。大まかな目安でよろしければ、今ここで試算してみましょうか」

「はい、大体で結構です。お願いします」

 母親の同意を得た筆者は、大まかな見通しを立てました。

将来のお金の見通しから、適正な貯蓄額を試算

 将来のお金の見通しは、次のような方法で立てることができます。

(1)家族の平均余命を調べる
(2)長男の1人暮らしの年数を割り出す
(3)親亡き後の必要額を試算してみる

 まずは(1)の「家族の平均余命を調べる」から始めます。家族の平均余命は、厚生労働省の「2021年簡易生命表」を参考にします。

 現在の家族の年齢および平均余命は次の通りです。

父親57歳⇒平均余命は約27年
母親55歳⇒平均余命は約34年
長男26歳⇒平均余命は約56年

 父親と母親の平均余命から、長男は今から約34年後に1人暮らしが始まるものと仮定します。今から34年後に長男は60歳になっています。さらに長男の平均余命は56年なので、26歳+56年=82歳まで存命とします。

 ここまでくれば(2)の「長男の1人暮らしの年数を割り出す」ことができます。60歳から82歳まで1人暮らしをするものとすると、その年数は22年になります。

 最後に(3)の「親亡き後の必要額を試算してみる」です。長男の収入は障害年金および障害年金生活者支援給付金で月額約7万円。生活費および家賃の合計は月額で14万円としてみます。すると月の赤字は7万円。この生活が22年間続いたものとすると、7万円×12カ月×22年=1848万円になります。

 以上のことから、長男が将来に備えて貯蓄しておきたい目安額は1848万円ということが分かりました。

 長男の現在の貯蓄は約300万円。長男が1人暮らしを始めるのは今から34年後としています。よって1848万円-約300万円=約1550万円を34年間で貯蓄することになるので、1550万円÷34年÷12カ月=約3万8000円。月3万8000円を貯蓄に回したとすると、使えるお金は、7万円-3万8000円=3万2000円となります。

 そこまで試算した筆者は、母親に言いました。

「今回の試算はあくまでも事例です。やり方はご理解いただけたと思いますので、息子さんと一緒に試算してみてください。また、息子さんから『将来が不安なのでもう少し貯蓄を増やしておきたい』といった意見も出るかもしれません。その場合は、息子さんの意見も尊重するようにしてみてください」

「はい。分かりました。長男にもそのように伝えてみます」

 母親はそのように答えました。

(社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田裕也)

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浜田裕也(はまだ・ゆうや)

社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

2011年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本「第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え」を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことから、社会貢献の一環としてひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりの子どもを持つ家族の相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として、利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりの子どもに限らず、障がいのある子ども、ニートやフリーターの子どもを持つ家庭の生活設計の相談を受ける「働けない子どものお金を考える会」メンバーでもある。

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