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「ミンミンゼミは東日本、クマゼミは西日本でよく聞く」というけど、実際の分布は? 専門家に聞く

「セミの鳴き声」と聞いて、どんな鳴き声を思うかは人それぞれのようです。「ミンミンゼミは東日本、クマゼミは西日本でよく聞く」と言われることがありますが、実際の分布はどのようになっているのでしょうか。

セミの分布、実際には?
セミの分布、実際には?

 セミの鳴き声を聞いて「夏が来たなあ」と思う人も多いと思いますが、「セミの鳴き声」と聞いて、どんな鳴き声を思うかは人それぞれのようです。「『ミ―ン・ミンミンミン…』と鳴くミンミンゼミは東日本、『シャーシャー(もしくはシャシャシャ)』と鳴くクマゼミは西日本でよく聞く」と言われることがありますが、実際の分布はどのようになっているのでしょうか。九州大学大学院農学研究院の紙谷聡志准教授(昆虫学)に聞きました。

ミンミンゼミは北海道から九州まで分布

Q.日本に生息している主なセミの種類とそれぞれの鳴き声、生息域を教えてください。

紙谷さん「日本の主なセミの鳴き声と分布(生息域)は次の通りです。種名、鳴き声、分布の順に並べています」

・アブラゼミ 「ジーーーー」(北海道~屋久島)
・ニイニイゼミ 「チーーーー」(北海道~沖縄)
・ミンミンゼミ 「ミ―ン・ミンミンミン…」(北海道~九州)
・クマゼミ 「シャーーシャーー」(関東以南の本州~沖縄)
・ツクツクボウシ 「オーシンツクツク…」(北海道~トカラ列島)
・ヒグラシ 「カナカナカナ…」(北海道~奄美)

Q.ミンミンゼミは北海道~九州に分布、クマゼミは本州(関東以南)~沖縄に分布とのことですが、「ミンミンゼミは東日本でよく鳴き声が聞かれ、クマゼミは西日本でよく聞かれる」と聞いたことがあります。

紙谷さん「『ミンミンゼミは東日本でよく鳴き声が聞かれ、クマゼミは西日本でよく聞かれる』というのは、市街地での生息傾向になります。実際の分布とは、少し異なってきます。

ミンミンゼミは特異な分布をしており、九州では主に低山地に分布していますが、地域によっては海岸近くに生息している個体群があります。そのためミンミンゼミは暖かい場所が苦手ではないと考えられていますが、なぜ西日本の市街地でミンミンゼミが少ないのかについては、土壌の乾燥程度や競合するセミとの関係など、考えられる要因は幾つかありますが、詳しくは分かっていません。

なお、関西の市街地ではクマゼミが圧倒的に多いのですが、街中でミンミンゼミが少し鳴いていることもあります」

Q.その他のセミも含め、分布の違いについて教えてください。

紙谷さん「日本国内での分布は、主に生物地理学的な影響を受けていると思われます。日本の生物は、朝鮮半島と対馬経由で九州から日本に定着した生物と、サハリン経由で北海道から日本に定着した生物と、中国・台湾経由で沖縄から日本に定着した生物の、大きく3つの系統があります。

さらに、(屋久島と奄美大島の間にある)トカラ列島付近には『渡瀬線』と呼ばれる、生物の分布を大きく分断する境界があり、この渡瀬線を越えて分布を広げられる昆虫は、飛翔能力などの高い昆虫に限られます。このため、アブラゼミやミンミンゼミ、ツクツクボウシなどは、沖縄に分布していないと考えられます。

市街地や山など、どのような場所に生息するかという意味での生息域では、セミごとに、幼虫・成虫が好む環境が異なっているために生息域が異なります。環境には、餌となる樹木の有無、生息可能な気温、土壌の質(乾燥性なども含む)といった点があります。

特にヒグラシは、スギなどの針葉樹を好む傾向が強い種になります。また、ニイニイゼミ、アブラゼミ、ミンミンゼミ、クマゼミなどは市街地に多いセミですが、微妙に好む環境が異なっています」

Q.同じ地域でも時期によって、主な種類が変わってくると思います。一般的な傾向を教えてください。

紙谷さん「一般的には、ニイニイゼミが最も早く鳴き始め、次にクマゼミ、その次にアブラゼミ、ミンミンゼミと続いていきます。『ツクツクボウシは晩夏』というイメージが強いようですが、初鳴き自体は早く、7月には鳴き始めています。鳴き声が多くなるのは、晩夏ですが。

セミが鳴き始める時期は、気温に大きな影響を受けていると思われますが、種によって異なります。クマゼミは、5~6月の気温が暖かいと早く鳴き始め、寒いと遅くなります。一方、ミンミンゼミやツクツクボウシは5~6月の気温が暖かいと、遅く鳴き始めることがあります。

また、クマゼミの鳴き始めは、激しい降雨の後に始まることが多く、気温だけでなく、雨にも影響を受けていると思われます。一方、アブラゼミやニイニイゼミの鳴き始めには、降雨の影響は小さいと思われます。
日本では、地域ごとに気象の特性が異なるので、セミの発生する時期も多少の違いが生じています」

Q.地球温暖化は、セミの分布にも影響しているのでしょうか。

紙谷さん「地球温暖化とセミの分布の関係について、明確な関係はまだ見いだされていません。クマゼミが北関東や北陸・東北で散見されるようになっていますが、街路樹や庭木の移植といった人為的な影響が強いと思われます。クマゼミが発生できる気温を調べたところ、クマゼミの潜在的な分布範囲は、現在の分布範囲よりもかなり広いと思われます。

では、なぜ、生息できる気温にもかかわらず、クマゼミは北関東などに生息していないのでしょうか。その答えは、幼虫の餌となる樹木の分布が原因ではないかと考えられます。羽を持つ昆虫は移動して分布を簡単に広げることができますが、自分で移動することができない樹木は、気温が変化しても分布範囲はほとんど変わりません。このため、樹木の樹液を餌にしているセミのような昆虫は、気候変動(地球温暖化)による影響が、見た目上分かりにくくなっていると思われます」

(オトナンサー編集部)

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