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残業45時間が3カ月で「会社都合退職」になるって本当? 弁護士に聞く

「勤務先を会社都合で辞める」方法が時折、SNS上で話題になります。弁護士に真偽を確認しました。

「会社都合退職」にできる条件とは?
「会社都合退職」にできる条件とは?

「勤務先を会社都合で辞める」方法が時折、SNS上で話題になります。「過去6カ月のうち、残業が45時間を超えた月が連続3カ月以上続いていた場合、もしくは1カ月の残業が100時間を超えていた場合、『会社都合での退職』が適用され、給付制限期間なしで失業保険がもらえる」というものです。しかも「会社に監査と指導が入る」こともあるようで、「やればよかった」「そもそも残業がもみ消されたら?」など、さまざまな反応が見られます。

 情報の真偽について、芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

証拠を残すことが大切

Q.「過去6カ月のうち、残業が45時間を超えた月が連続3カ月以上」などで、実際に「会社都合退職」が適用されるのでしょうか。

牧野さん「適用される場合があります。

いわゆる失業手当の受給資格を得るには通常、被保険者の期間が(離職以前2年間に)12カ月以上必要ですが、倒産・解雇などの理由で再就職の準備をする時間的余裕がなく離職を余儀なくされた人は、『特定受給資格者』に認定されれば、『会社都合退職』となり、被保険者の期間が(離職以前1年間に)6カ月以上あれば受給資格が得られます。さらに、2カ月(場合によっては3カ月)の給付制限期間もなくなり、最短で7日後から手当が支給されます。

倒産や解雇のほか、会社都合退職扱いとなるケースが幾つかありますが、その中に『離職の直前6カ月間のうちに3カ月連続して45時間、1カ月で100時間または2~6カ月平均で月80時間を超える時間外労働が行われたため、または事業主が危険もしくは健康障害の生ずる恐れがある旨を行政機関から指摘されたにもかかわらず、事業所において当該危険もしくは健康障害を防止するために必要な措置を講じなかったため離職した者』というものがあります。質問の条件は、このケースに該当する可能性があります」

Q.「会社に監査と指導が入る」のは事実でしょうか。

牧野さん「当局としては、法令違反の就労の事例が複数認知される場合、会社が組織的に法令違反の就労を行わせている恐れがあるため、まずは調査を行って事実関係を確認することが最初のステップになるでしょう。その結果次第では、『会社に監査と指導が入る』こともあり得ます。ただし、違反が認められない場合もあるので、常に監査と指導が入るとは言えません」

Q.時間外労働に関する先述の要件を満たしていることを証明する上で、タイムカードなど必要になる記録やデータは何でしょうか。

牧野さん「基準を超える時間外労働の事実を証明できる証拠が必要であり、タイムカードの写しや給与明細など時間外労働時間の事実が分かるものを保管しておくべきです。自分のタイムカードをスマホなどで撮影した画像データも有効です。タイムカードがない場合は、毎日の出社と退社時間を手帳などにメモしておいてもよいでしょう」

Q.正当な理由なく、「会社都合退職」とすることを拒否されるケースはあるのでしょうか。またその場合、労働者としてはどのような法的措置を取れるのでしょうか。

牧野さん「離職者が、会社都合退職と自己都合退職のいずれに該当するのかは、離職票に記載された離職理由に基づきハローワークが判断します。ハローワークは、まずは会社が離職票に記載した離職理由で判断することになりますが、会社と離職者が主張する離職理由に相違がある場合、双方から事情を聞いて判断するので、離職者としては必ず、離職票の『離職理由』は『労働者に係る問題があったと労働者が判断したため』を選び、『具体的事情記入欄(離職者用)』に時間外労働に関する記述を残した上で、時間外労働の証拠文書を提出する必要があります。

上記の時間外労働の要件を満たせば、ハローワークが会社都合退職扱いを拒否するケースは原則ありませんが、証拠が足りないなどで『証明が不十分』として認定されないことはあります。その場合、ハローワークの決定について争うことができます」

(オトナンサー編集部)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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