「ティッシュを詰める」→実はNG! 誤解だらけの「鼻血」対処法3つ、耳鼻科医に聞いた
鼻血が出たときの対処法として広く知られる、「ティッシュを鼻に詰める」「上を向く」といった方法、実は間違っているそうです。実際のところを耳鼻科医に聞いてみました。

「鼻血」が出たときの対処法として、「鼻にティッシュを詰める」「上を向く」「首の後ろをトントンとたたく」といった方法を思い浮かべる人や、実際に行ったことがある人は多いと思います。これらの方法は昔からよく知られており、「親や祖父母にこう教わった」「小さい頃からずっとこのやり方で鼻血を止めてきた」「子どもが鼻血を出したときもこうしている」という人もいるようですが、実は、こうした対処法は「NG」とされているようです。
昔からよく行われてきた鼻血の対処法は、本当に誤っているのでしょうか。実際のところについて、東京みみ・はな・のど サージクリニック(東京都多摩市)名誉院長の市村恵一さん(耳鼻咽喉科)に聞きました。
ティッシュは鼻の粘膜、傷つける
Q.そもそも、「鼻血」とは何ですか。
市村さん「鼻の入り口の穴は『外鼻孔』といい、それより奥は粘膜で覆われています。鼻血とは、その粘膜の中にある血管が損傷し、血液が血管外、さらに粘膜外に出て、それが外鼻孔や咽頭へ流れ出した状態のことで、医学的には『鼻出血』といいます。鼻血となる必要条件は、血管の壁と、血管を覆う粘膜表面の両方が傷つくことです。これは外力、あるいは血管内からの圧力(血圧)が加わったときに起こる他、血圧の急激な変化も原因となります。
出血量は、動脈と静脈のどちらから出るかによって異なり、動脈性は勢いもよく、止まりにくいです。ただ、多くの場合は静脈性で、出血部位を押さえると5分以内に止まります。また、季節でいうと、寒くて乾燥する冬は出やすく、夏は少ない傾向があります」
Q.鼻血が出やすい人は。
市村さん「一般的に、男性に多いです。年代別では子どもに多く、大人になると減りますが、年を取るにつれて、また回数が増えてきます。年に数回以上出血する人は4%、一生のうちに大量・頻回の鼻血を経験する人は約10%とみられます。
子どもの鼻血のほとんどはアレルギー性鼻炎によるものです。鼻のかゆみがある場所を手でこすったり、指でほじったりすることで粘膜がこすれて傷み、その度合いが進むと、血管の壁が破壊・修復を繰り返してうっ血し、血管が膨れ上がります。こうなると、直接の刺激以外にも洗顔や鼻かみにより、習慣的に出血してしまいます。子どもの鼻血は外力の影響が強いのです。
一方で、大人の大量出血の場合は血管に由来する原因が多いです。年を取ると血管の動脈硬化が進み、その結果、血圧が上がることで出血しやすくなります。血管がもろくなる要因は他に、動脈瘤、動静脈奇形、オスラー病(全身の血管に異常が起き、出血症状が現れる病気)などがある他、出血しやすくなる病気として血小板減少症、白血病などがあります。最近は抗凝固薬を服用している患者さんが極めて多いのですが、こうした人たちは鼻血の頻度も多く、止まりにくいです」
Q.鼻血が出たときの対処法として広く知られる「鼻にティッシュを詰める」「上を向く」「首の後ろをトントンとたたく」の3つが、“やってはいけない”方法であるというのは事実でしょうか。
市村さん「事実です。ティッシュを詰める方法は一般的ですが、多くの出血が鼻の中央の仕切りである『鼻中隔』の入り口近くの部分(キーゼルバッハ部位)からなので、ちょうどそこにティッシュの先端が当たって圧迫止血できるわけです。
ところが、ティッシュを詰めることによって鼻の粘膜を傷つけたり、取るときにかさぶたが剥がれて再び出血したりする可能性があります。特に、オスラー病のような血管の壁が弱い例や、血友病など血が固まる能力が弱い例では問題なので、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会ではこの方法は勧めていません。
なお、『上を向く』のは誤った方法です。頭を後ろにそらすと鼻血が喉に回り、それを誤嚥(ごえん)する可能性がある他、鼻血を飲み込んでしまい、血液が胃にたまって吐き気が誘発され、吐いたものを誤嚥する危険もあります。また、『首の後ろをトントンとたたく』方法も昔はよくいわれましたが、それで鼻血が止まることはありません。局所の安定が保てず、逆効果です」
Q.この3つ以外にも、「鼻をかんで鼻血を出し切ろうとする」「鼻全体をつまむ」といった対処をする人もいるようですが、これらについてはどうでしょうか。
市村さん「出血すると、血を止めるために、破れた血管が反射的に収縮し、流れる血液の量を減らす仕組みと、血液が固まって防波堤を作る仕組みが働きます。『鼻をかんで鼻血を出し切ろうとする』のは、その両方に反するため、誤っています。
『鼻全体をつまむ』のもお勧めできません。外から出血部位を圧迫する意味では理にかなっていますが、その原則は『出血している側だけを親指で横から押さえる』ことであり、反対側の鼻は呼吸のために開通させておく必要があります。よって、鼻全体を押さえない方がよいです」
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