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「壁ドン」が暴行罪や脅迫罪になるって本当? 弁護士に聞く

男性が女性を口説く方法といわれている「壁ドン」ですが、その行為自体が暴行罪や脅迫罪に問われるのではないかという声があります。「壁ドン」をすると罪に問われるのは本当でしょうか。

「壁ドン」をすると罪に問われる?
「壁ドン」をすると罪に問われる?

 先日、内閣府の「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」で、恋愛が苦手な男性が女性を口説く方法として「壁ドン」を教える案が出されたことに、ネット上などで批判が相次ぎました。そもそもこの「壁ドン」の行為自体が、犯罪になるのではないのかという声もあり、ネット上では「暴行罪では?」「脅迫罪では?」といわれています。「壁ドン」をすると罪に問われるのは本当でしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

「壁ドン」は慎重に

Q.「壁ドン」をすると罪に問われる可能性があるのは本当でしょうか。罪になる場合、どのような罪になり得ますか。

佐藤さん「罪に問われる可能性はあるでしょう。問われるとしたら、まず暴行罪が考えられます(刑法208条)。暴行罪は、『人の身体に対する不法な有形力の行使』があると成立します。

殴る、蹴るなど、人の身体に直接接触する場合はもちろん、相手の数歩手前を狙って石を投げつける行為など、身体に接触しない場合でも、暴行罪の成立を認めた裁判例があります(東京高裁1950年6月10日判決)。また、着衣を引っ張り、相手の行動を制止するなど、相手がけがをする可能性がない程度の行為であっても、暴行に当たると判断した古い判例もあります(大審院1933年4月15日判決)。

『壁ドン』は、相手を壁際に追い詰め、壁に『ドン』と手を付くことになるので、相手の身体に直接接触することはなく、けがを負わせる危険もほとんどないと思われますが、相手の行動を制御することにはなるため、理論的には暴行罪が成立する可能性があります。

仮に、暴行罪に問われた場合、『2年以下の懲役、もしくは30万円以下の罰金、または拘留、もしくは科料』を科される可能性があります。ただし、被害者が被害を届け出ていないのに、警察が暴行事件として立件することはほとんど考えられません」

Q.「脅迫罪では?」という声もあります。脅迫罪に問われることはあるのでしょうか。

佐藤さん「場合によっては、脅迫罪に問われることもあるでしょう(刑法222条)。脅迫罪は、『生命、身体、自由、名誉または財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した』場合に成立します。

客観的に見て、恐怖を抱くような害悪の告知があれば、脅迫罪に問われる可能性があります。『壁ドン』によって、行動を制御された女性に対し、口説き文句のつもりで身体的接触を迫るような発言をしたり、『付き合ってくれないと○○する』など強引に交際を迫ったりすると、一般的に相手を怖がらせるような害悪の告知があったものとして、脅迫罪に問われることもあり得るでしょう。

仮に、脅迫罪に問われた場合、『2年以下の懲役、または30万円以下の罰金』を科される可能性があります。ただし、暴行罪と同様、脅迫罪についても、被害者が被害を届け出なければ、まず立件されることはありません」

Q.好意のない男性から「壁ドン」をされ嫌な思いをした場合、防御のつもりで、手で強く押し返すことは、正当防衛として認められるのでしょうか。

佐藤さん「『壁ドン』をされた状態で、防御のために手で相手を押し返す程度であれば、違法性が認められない可能性が高いでしょう。手で強く相手を押し返す行為は、暴行罪に問われ得る行為ではありますが、先述したように、暴行罪は『人の身体に対する不法な有形力の行使』があった場合に成立し、社会生活を営む上で通常許される適法な行為は、『不法な』有形力の行使に当たらず、暴行罪は成立しません。

そのため、具体的な状況や押し返し方にもよりますが、常識的に許される範囲で防御したのだとしたら、罪に問われることはないでしょう」

Q.今後、女性に「壁ドン」をして、いいところを見せようと考えている男性は、考えを改めた方がよいのでしょうか。

佐藤さん「恋愛のアプローチは、相手の受け止め方次第で『うれしい』か『不快』か180度変わってしまうものです。特に、『壁ドン』は少々強引な方法であるため、相手の気持ちによっては、恐怖や不安、怒りなど“負の感情”が大きく出る可能性もあり、最悪の場合、『被害を受けた』として警察に届けられるリスクもあります。

そのため、『壁ドン』のような強引なアプローチをしたい場合には、事前に相手の気持ちを確かめたり、一方通行の思いではないか、お互いに信頼関係が築かれている状況か判断したりと、慎重になる必要があると思います」

(オトナンサー編集部)

佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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