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55歳ひきこもり長男を抱える母親、期待する公的年金の「繰り上げ受給」とは?

ひきこもりの人が老齢基礎年金を60歳から繰り上げで受給する場合と65歳から受給する場合とでは、どちらの方がよいのでしょうか。専門家が解説します。

老齢基礎年金の繰り上げ受給とは?
老齢基礎年金の繰り上げ受給とは?

 ひきこもりのお子さんは、無職の状態で、国民年金に加入し続けているケースが多いです。精神疾患などの障害症状が比較的軽く、障害年金の受給が難しい人は65歳から老齢基礎年金(老後に支給される国民年金)を受給することになりますが、その場合、65歳まで無収入となってしまいます。そこで、「65歳からではなく、もっと早くから老齢基礎年金を受給したい」という場合、「繰り上げ受給」を検討することになります。

アルバイトが長続きせず自信を失った息子

 筆者の元に相談に訪れた高齢の母親(80)は、ひきこもりの長男(55)について語り出しました。

 長男は高校生のときに不登校となり、そのまま20歳を迎えました。20代から30代の頃はアルバイトをしていたこともありますが、いずれも長続きしなかったそうです。

「アルバイトすらまともにできない…。自分はなんて駄目な人間なんだ」

 30代後半を過ぎた長男は、両親の前で嘆きました。すっかり自信を失って社会との接触を避け、家の中にひきこもるようになってしまったそうです。

 父親は5年前に死亡。長男には兄弟姉妹はいません。現在、長男は高齢の母親と2人でひっそりとした生活を続けています。

 そこまで語った母親は、長男の国民年金について質問をしました。

「長男は今まで正社員として働いたことがなく、ずっと国民年金に加入しています。国民年金(老齢基礎年金)は65歳からもらえると思うのですが、そうなると65歳までずっと無収入になってしまいます。国民年金は早めにもらうこともできると聞いたのですが、長男の場合、どのようになるのでしょうか」

「おっしゃる通り、老齢基礎年金は65歳から受給することになります。しかし、ご本人が希望すれば60歳から65歳になるまでの間に受給することもできます。これを『繰り上げ受給』といいます。繰り上げ受給をすると65歳よりも早く年金を受給することができますが、『一生涯減額された年金を受け取る』ことになってしまいます。繰り上げ受給については2022年4月に法改正があり、減額率が変更になりました(法改正の対象者は1962年4月2日以降生まれの人)。法改正前の減額率は0.5%でしたが、法改正後は0.4%に緩和されたので、仮にご長男が60歳で繰り上げ受給した場合、『0.4%×60カ月』なので、24%減額されることになります」

「24%の減額ですか。結構大きいですね…。もし長男が60歳で繰り上げ受給をしたら、どのくらいの年金が受け取れるのでしょうか」

「そうですね。ご長男の年金加入状況が分かれば、大まかな金額になりますが試算することはできます。それでもよろしいでしょうか」

「はい。大体で構いません。お願いします」

 筆者は母親から長男の年金加入状況を伺いました。

【画像】60歳から受給した方が得? 老齢基礎年金の受給額を比較

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浜田裕也(はまだ・ゆうや)

社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

2011年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本「第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え」を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことから、社会貢献の一環としてひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりの子どもを持つ家族の相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として、利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりの子どもに限らず、障がいのある子ども、ニートやフリーターの子どもを持つ家庭の生活設計の相談を受ける「働けない子どものお金を考える会」メンバーでもある。

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