スーツから飛び出た糸は切ってもよい？　裾や尻に糸で「×」と縫っているのはなぜ？

　この春、社会人となり、スーツやワイシャツ、ネクタイを毎日着用するようになった人も多いと思います。日々着ているうちに、しわや汚れが目立ってくるため、身だしなみを整える上で、アイロンがけやクリーニングといった手入れが欠かせません。

　ところで、スーツなどを長期間使っていると、縫い目や生地から糸が飛び出たり、ネクタイの裏側から「糸の輪」が出てきたりすることがあり、見た目がよくないことから、糸を切るべきか迷うことがあります。縫い目や生地から飛び出た糸は、はさみで切ったり、引きちぎったりしても問題はないのでしょうか。また、スーツを購入したときに、上着の後ろの裾やスラックスの尻の部分に、糸が「×」の形で縫われていることがありますが、なぜなのでしょうか。紳士服メーカーのAOKI（横浜市都筑区）の広報担当者に聞きました。

ほつれは切らず、針で押し込む

Q.ネクタイの裏側を見ると、糸の輪が出ていることがあります。この糸は何のためにあるのでしょうか。はさみで切ったり引きちぎったりしてもよいのでしょうか。

担当者「この糸の輪は『たるみ糸』と呼ばれており、ネクタイの裏側を縫い合わせた糸の余り部分に当たります。ネクタイの縫い目が緩んだり、ネクタイ全体が形崩れしたりしたときに、この糸を引っ張ってたるみを直すためにあるので、はさみで切ったり引きちぎったりせず、そのまま使ってください」

Q.スーツやワイシャツを着ていると、縫い目や生地から糸が飛び出てくることがあります。はさみで切ったり引きちぎったりしてもよいのでしょうか。

担当者「糸の出方や生地の特性により、対応方法は異なります。次のように対処するとよいと思います。

【縫い目のほつれ】
縫い目から糸が飛び出しているのは、（1）生地の裁ち端がほつれた（2）縫い糸の端が飛び出た（3）2種類以上の糸が縫い込まれていて、一部の糸が飛び出た―のいずれかが原因だと考えられます。軽く引っ張って抜けない場合、ほつれの悪化や、縫い目にテンションがかかる（縫い目にしわが寄ってしまう）などの原因となる可能性があるので、糸切りばさみなどで糸を切るとよいでしょう。

【生地のほつれ】
生地から糸が出ている（糸端あるいはループ状の糸が飛び出している）場合は、切ったり引っ張ったりしてしまうと、糸引き（糸が飛び出ること）やほつれ、穴が開いてしまう原因となる可能性があるので、細い針などを使い、裏側に押し込むとよいでしょう」

Q.スーツやワイシャツの生地が裂けたり、生地に穴が開いたりするなどした場合、修復は可能なのでしょうか。

担当者「糸のほつれ（縫い目が解けてしまった場合）であれば、洋服のリフォーム店などに依頼するか、ミシンや手縫いで作業することで修復可能なケースもあります。しかし、生地が裂けたり、擦り切れて穴が開いたりした場合は、買い替えのタイミングだと考えた方がよいでしょう。

布地にできた穴や擦り傷などをふさぐ『かけはぎ（かけつぎ）』という修復方法もありますが、損傷前の状態には戻らない可能性が高いです。また、一般的なお直しよりも値段が高くなります」

Q.店舗で購入したスーツの上着やスラックスを見ると、上着の後ろの裾やスラックスの尻の部分が、糸で「×」の形で縫われていることがあります。この糸は何のためにあるのでしょうか。

担当者「上着の後ろ裾の開き部分（ベント、ベンツ）を縫い合わせている糸や、スラックスの尻の部分に縫われている糸は、『しつけ糸』といいます。

上着のしつけ糸は、製品の輸送時にベントが開いてしわや折れ、型崩れになるのを防ぐためにあります。また、スラックスのしつけ糸は、ポケットの内袋を縫い合わせて止めており、こうすることで輸送時に内袋が寄ってしわになったり、折れたりするのを防ぎます。

なお、スーツを着用する前は、しつけ糸をはさみで切って取り外してください。しつけ糸が付いた状態で上着を着るとベントが開かず、しわがつく可能性があります。特にいすなどに座ったときは、しわがよりつきやすくなるので外し忘れないようにしましょう」

（オトナンサー編集部）