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オミクロンでも嗅覚障害 味やにおいを感じなくなる原因は? 治療はどうする?

新型コロナウイルスに感染すると、においや味を感じなくなることがあるのは、なぜなのでしょうか。専門家に聞きました。

新型コロナ感染後、においや味を感じなくなる理由は?
新型コロナ感染後、においや味を感じなくなる理由は?

 新型コロナウイルスのオミクロン株の流行が続いていますが、感染した人の中には、デルタ株などのときと同様、においや味を感じなくなる人もいるようです。新型コロナウイルスに感染すると、なぜにおいや味を感じなくなるのでしょうか。また、嗅覚や味覚を正常に戻すために、辛い食べ物やコーヒーなどの刺激物を多く摂取してもよいのでしょうか。新型コロナウイルスに感染後、嗅覚や味覚に異常が生じた場合の対処法について、東京みみ・はな・のど サージクリニック(東京都多摩市)名誉院長の市村恵一さん(耳鼻咽喉科)に聞きました。

欧州では4種類のにおい嗅ぐ訓練

Q.新型コロナウイルスに感染した人の中には、においや味を感じなくなる人もいるようですが、なぜこのような症状が出るのでしょうか。

市村さん「体内に侵入した新型コロナウイルスは、細胞膜上の『アンギオテンシン変換酵素2』という酵素と結合後、『タンパク分解酵素』の働きにより細胞内に取り込まれます。鼻の上部にある『嗅粘膜(きゅうねんまく)』には、これらの酵素が豊富にあるので、鼻は新型コロナウイルスの影響を受けやすい器官といえます。

嗅粘膜はにおいを受容する『嗅神経細胞』とそれを支える『支持細胞』、そして嗅神経細胞の元になる『基底細胞』で成り立っています。また、基底細胞の下にある『ボウマン腺』から粘液が出て、粘膜表面を粘液で潤しています。嗅粘膜にウイルスが感染すると、支持細胞とボウマン腺細胞に感染して炎症を起こし、中には嗅神経細胞にまで影響が及ぶこともあります。これが嗅覚障害の仕組みと考えられます。

味覚の方ですが、舌の味蕾(みらい、舌の表面の突起)や唾液腺にもアンギオテンシン変換酵素2があるといった報告はあるものの、明確な裏付けはなく、新型コロナによって味覚障害が起きるメカニズムはまだ分かっていません。実は、味覚障害を訴える患者の多くは、味覚検査では正常値を示します。従って、味覚障害を訴える患者の多くは、味覚障害ではなく、嗅覚障害に伴う風味障害(味覚は正常でも味を感じにくくなる症状)であると考えられます」

Q.嗅覚障害や味覚障害は、自然に治るのでしょうか。それとも治療が必要なのでしょうか。

市村さん「嗅覚障害や味覚障害になると、においや味を全く感じない、またはあまり感じない状態になりますが、数日や数週間経過すると、比較的速やかに改善します。嗅覚障害が短期間で回復するのは、先述のように、ウイルスが嗅神経に直接ダメージを与えるのではなく、支持細胞やボウマン腺細胞に一時的な炎症を起こしているためと考えられます。

ただし、数カ月にわたって障害が持続する症例もあり、嗅覚障害を発症した人のうち、6カ月後の時点で12%、味覚障害を発症した人のうち6%に障害が残っています。こうした後遺症として長期間障害が残る場合、嗅神経細胞にまで影響が及んでいる可能性があります」

Q.新型コロナウイルスによる嗅覚障害や味覚障害を改善する方法について、教えてください。においや味を感じなくなった人の中には、辛い食べ物やコーヒーなどの刺激物を多く摂取する人もいるようですが、問題はないのでしょうか。

市村さん「ヨーロッパでは1日2回、4種類の決まったにおいを嗅ぐトレーニングがすすめられています。わが国ではまだトレーニング方法などが確立していないため、日本鼻科学会の嗅覚グループがすすめているように、当院では、1日2回、どんなにおいでもよいので、においを数種類、15秒ずつ嗅ぐように指導しています。

味覚に関しては、このようなトレーニング方法は決まっていません。辛い食べ物で味覚を刺激すると健康被害が生じる可能性もあり、すすめられません」

Q.新型コロナウイルスの感染などにより、嗅覚や味覚に異変が生じた場合はどうすればよいのでしょうか。

市村さん「『においを感じない』『何を嗅いでも同じにおい』『味を感じない』などの症状が2週間以上続いたら、耳鼻咽喉科を受診するのがよいでしょう。ただし、現時点で、症状が長期間持続する嗅覚・味覚障害に対する有効な治療方法はありません。

内視鏡あるいはCT(コンピューター断層撮影)による診察で副鼻腔に異常を認めない場合は『嗅神経性嗅覚障害』と診断し、一般的な風邪の後に起こる嗅覚障害に準じた治療を行います。味覚障害に対しては、まず本当に味覚障害なのか、それとも嗅覚障害に伴う風味障害であるのかを見極める必要があり、そのためには耳鼻咽喉科専門医の診察が必要です。なお、後遺症としての嗅覚障害や味覚障害は、完治までに数カ月かかることが多いです」

(オトナンサー編集部)

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市村恵一(いちむら・けいいち)

医師(耳鼻咽喉科、「東京みみ・はな・のど サージクリニック」名誉院長)

東京大学医学部医学科卒業。医学博士、自治医科大学名誉教授、日本耳鼻咽喉科学会認定専門医、日本耳鼻咽喉科学会認定補聴器相談医、補聴器適合判定医(厚生労働省)、日本気管食道科学会認定専門医。鼻血を繰り返す全身性の難病「オスラー病」の数少ない権威でもあり、全国から患者が訪れる。耳と鼻、気道といった耳鼻科全般の豊富な経験を持つ。現在は短期滞在手術施設「東京みみ・はな・のどサージクリニック」(東京都多摩市)の名誉院長を務め、一般外来、補聴専門外来を担当。(https://tokyo-ent-surgi.com/)。

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