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都市伝説? 「マイホームを買ったら転勤させる」企業は本当に存在する?

就活や転職、企業人事のさまざまな話題について、企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた筆者が解説します。

「マイホームを買ったら転勤」は都市伝説?
「マイホームを買ったら転勤」は都市伝説?

 何十年も前から、サラリーマン都市伝説的な話として、「マイホームを買ったら、その人は会社を辞めないだろうから、会社は安心して転勤させる」というものがあります。会社への滅私奉公が求められた大昔ならいざ知らず、転勤というもの自体が「人権無視だ」とか「パワハラだ」とか言われることもある現代では、「そんなバカな」「あるわけない」と言いたいところです。

 企業人事の人と日々接していて、そのような異動の内規があるような会社は聞いたことがありません。ただ、それでも実際には、今でもちょくちょくそんな話(実話)を耳にします。もし、そういう状況が生じるのであれば、一体どんな背景があるのでしょうか。

「家を買う年齢」と「課長になる年齢」の関係

 一つは単純に、人がマイホームを買う時期と、転勤を伴う異動が生じる時期が、一致しているということでしょう。実際の数字を見てみましょう。国土交通省「住宅市場動向調査報告書」などを見ると、マイホームを買う時期は、新築一戸建てやマンションでは40代手前が最も多く、中古一戸建てやマンションでは40代の前半であることが分かります。

 一方、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」などを見れば、課長の平均年齢は40代後半です。初めて課長になるのはそれよりも早いと思われるので、おおよそマイホームを買う時期と一致しているようです。そして、課長などに昇進することと、転勤とは密接な関係があるのです。

希少価値、高い技能が転勤、昇進のカギ

 少し古い考えであることは承知で、「会社がなぜ転勤をさせるのか」について考えてみたいと思います。当然ながら、会社は嫌がらせで人を転勤させることは、普通ありません。それはドラマの見過ぎではないかと思います(一部にはあるかもしれませんが…)。

 会社が転勤を命じる理由の一つは、基本的に、その人が社内で希少価値が高い人材で、「その人しかできない特殊技能」があるからです。ある地域でその特殊技能が必要になったとき、その地域にできる人材がいなければ、全社全国から人材を探し、幸か不幸かどこかで発見されてしまったら、白羽の矢が立って、異動辞令が出るということです。「転勤する人は評価されている」のです。

 また、課長に昇進するほど会社から高い評価を得ている人は、何らかの特殊技能を持っている人が多いでしょうから、転勤の対象になるわけです。一般的な技能であれば、それぞれの地域で人材を確保できるはずです。特殊技能だから、よその地域の人材にお越しいただかなくてはならないということです。

 さらに、現代日本はご存じの通り東京一極集中ということもあり、地方では特に特殊技能人材が少ない状況になっています。このことも、東京などの大都市圏から地方への転勤を促しています。東京では一般技能でも、地方では希少な特殊技能となることも多いからです。

転勤で人は成長する

 もう一つ理由があります。それは、転勤は人材育成につながるということです。適切な仕事アサインで人を育てることを主張したモーガン・マッコールは、成長を促す16の経験を分類しましたが、その中に「最初の管理職経験」「ゼロからのスタート」「立て直し」「視野の変化」などを挙げました。これらは転勤によっても可能となります。

 例えば、中央ではまだ管理職のポジションが空いていなくても、空いている地方へ転勤すれば、管理職経験が積めます。また、新しい事業がまだ展開されていない地方への転勤はゼロからの経験を、事業がうまくっていない地方への転勤は、立て直しの経験を積めるかもしれないのです。

 ここまで述べたように、転勤は特殊技能を期待されるか、成長を期待されるか、いずれにせよ、何かを期待されて行われるものです。転勤に限らないことですが、異動はすべて会社からみれば「投資」です。異動してすぐ慣れないままでパフォーマンスを出せる人は少ないため、会社は一定期間、損をするからです。

 それでも、その人の技能を買っていたり、育成をしたかったりするから、会社は人に転勤をさせるわけです。ですから、もしマイホームを買う時期に転勤となった人は、大変お気の毒だとは思うのですが、会社から期待をされているのだと認識してはどうでしょう。

 時代遅れな考えかもしれませんが、前向きに捉えることをおすすめします。

(人材研究所代表 曽和利光)

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曽和利光(そわ・としみつ)

人材研究所代表

1971年、愛知県豊田市出身。灘高校を経て1990年、京都大学教育学部に入学し、1995年に同学部教育心理学科を卒業。リクルートで人事採用部門を担当し、最終的にはゼネラルマネジャーとして活動した後、オープンハウス、ライフネット生命保険など多様な業界で人事を担当。「組織」「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法を特徴としている。2011年、「人材研究所」を設立し、代表取締役社長に就任。企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を超える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開している。著書に「組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス」(共著、ソシム)など。

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