苦手な人もいるのに…「すし」で酢飯を当たり前のように使うのはなぜ?
日本で食べる伝統的なすしでは、ほとんどの場合、酢飯を使いますが、生の魚と一緒に食べないすしでも酢飯です。なぜ、すしは酢飯でなければいけないのでしょうか。

世界的にも有名な「すし」ですが、日本で食べる伝統的なすしでは、炊き立ての白米ではなく、冷やした酢飯を使います。当たり前で気にする人は少ないかもしれませんが、「ちらしずし」や「いなりずし」のように、生の魚と一緒に食べないすしであっても、酢飯を使います。なぜ、すしは酢飯でなければいけないのでしょうか。料理研究家の長田絢さんに聞きました。
冷えても乾燥して硬くならない
Q.なぜ、生の魚と一緒に食べる「にぎりずし」では、酢飯を使うのでしょうか。
長田さん「まず、酢飯は生の魚との相性が良く、おいしいという理由が、大前提としてあります。さらに、傷みにくくするためというのもあります。
もともと、米と魚を乳酸菌で発酵させていた歴史があるすしですが、発酵させないにぎりずしに酢飯を使うのは、酢に殺菌効果や防腐作用があるからです。酢の主成分である酢酸は、pH(水素イオン濃度指数、酸性・中性・アルカリ性の分類の尺度)を下げて酸性にし、雑菌が繁殖しにくい環境をつくります。そのため、米や魚に酢を混ぜるだけですしを腐りにくくすることができるのです。
そして、生臭さを消すためという理由もあります。生魚は種類や鮮度にもよりますが、生臭さが出やすい食材のため、消臭効果があり、魚の生臭さを消してくれる効果のある酢飯を使います。
さらに、シャリが冷えたとき、乾燥して硬くならないようにするためです。酢飯には酢、砂糖、塩がよく使われていますが、砂糖は米に含まれるでんぷんの老化を防ぎ、糊化(こか)している状態を保ち、冷えても固くなりにくくしてくれます。
ただし、砂糖だけ入れると甘いご飯になってしまいます。そこで、酢、塩を入れることで、酸味、塩味、甘味のそれぞれの抑制効果が働き、バランスよくできあがっているのです」
Q.「ちらしずし」や「いなりずし」では、海鮮ちらしなどを除いて、生の魚を材料に使わないです。なぜ、酢飯を使うのでしょうか。
長田さん「生の魚を使用しないちらしずしやいなりずしも、先述したように、ちらしの具やいなりの揚げとも相性が良くておいしいという点、そして腐敗しにくくさせる点と、冷めてもご飯が硬くなりにくい点が当てはまります」
Q.なぜ、すしは酢飯でなければいけないのでしょうか。
長田さん「もともとは、先述した理由で広まり、定着したすしの酢飯ですが、『すしは酢飯でなければいけない』わけではないと思います。酢の味が苦手な人は多いですし、その場合は、普通のご飯でちらしずしやいなりずしを作ってもよいと思います」
Q.酢飯を使わない「すし」は、日本や海外に存在するのでしょうか。
長田さん「国内では、すしを提供する飲食店や、販売するスーパーなどでは、酢飯を使うすしが一般的ですが、使わないすしもあります。そもそも、酢が苦手な人は、家庭で作るすしに酢を使用していないことが多いです。子どもが苦手な場合は、特にそうだと思います。
海外では、日本ののり巻きに似ている韓国の『キンパ』は、もともと酢飯を使いませんし、『カリフォルニアロール』や、日本の手巻きずしに似ているブラジルの『テマケリア』なども、海外で食べると酢飯ではないこともあります」
Q.すしのバリエーションは今後も増えていくと思いますが、酢飯を使うことは不変だと思われますか。思われませんか。
長田さん「長い歴史と文化、定着しているイメージがありますので、すしに使われるシャリの酢飯が、主流から外れることはないと思います。ただ、個人的に『すし飯』と呼ぶ場合が多いです。
それは、すしに合うように調味した飯という意味も込めて、必ずしも酢を使うとは限らないからです。酢の代わりにかんきつの果汁を使っても、おいしいすし飯ができます。すしのバリエーションに合わせて、さまざまなスタイルを自由に楽しみ、豊かな食事の時間を過ごせたらよいと思います」
(オトナンサー編集部)
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