”学校=ブラック職場”の実情? 「全国で2558人教員不足」に誰がした?
大学入試改革など、高等教育を中心にしたさまざまな問題について、教育ジャーナリストである筆者が解説します。

もうすぐ新年度。各地では、公立学校の教職員人事も発表されています。ところで、昨年4月の始業時に全国の公立学校で2558人の「教師不足」があったことを1月末に文部科学省が発表し、大きなニュースになりました。背景には、ここ20年近くに及ぶ「構造的」な問題があります。今回は、誰が「2558人不足」にしたのか、考察してみます。
5月1日時点でも2065人解消できず
公立学校の教師の数(教職員定数)は、法律によって、児童生徒数などを基準に決められます。まず4月1日時点で必要な定数を推計しておき、引っ越しなどが一段落する5月1日の段階で確定させる仕組みです。ですから4月の間はどうしても推計に狂いが出てしまいますし、さらには年間を通じて産休や育休、病気休職の教師が出てくるため、あらかじめ一定の臨時的任用教員(臨任)を確保しておく必要があります。
調査によると、始業日時点で2558人(うち小中学校2086人)あった教師不足が、5月1日時点でも2065人(同1701人)ありました。小学校では367校で学級担任が474人不足し、本来は担任を持たないはずの教師や、校長、副校長、教頭などが担任を受け持ちました。中学校や高校では、中学校16校、高校5校で一部教科の授業が行えませんでした。
人事権を持つ教育委員会に対し、文科省がアンケートを行ったところ、教師不足の原因として、▽産休などの増加▽特別支援学級数の増加▽必要な臨任の見込み以上の増加▽採用者数の増加数に伴う、講師名簿登録者数の減少――が要因として挙がりました。
地方の財政難で増える「非正規教員」
問題の一つは、そもそも現在の公立学校が、昔からある産休代替などにとどまらず、臨任なしには本来の学校運営ができないような構造になっていることです。
公立小中学校の教職員給与は、小泉純一郎政権の「三位一体の改革」により、2006年度から国の負担率が2分の1から3分の1に引き下げられました。これに先立って文科省は2004年度から「総額裁量制」を導入し、給与水準を引き下げて正規の教職員数を増やしたり、正規教員1人分を数人の非正規教員に替えたりして、少人数教育を充実するなど、地方独自の教育ができるよう運用を認めていました。
当時は国だけでなく、地方も財政悪化が深刻になっていた時でした。地方公務員の給与水準が引き下げられるのと連動して、公立学校教職員の給与水準も引き下げられました。その上に総額裁量制を導入しようとすれば、必然的に臨任が増えざるを得ないわけです。
年齢構成のいびつさで業務にも支障
もう一つの構造的な要因として、新規採用教員の需要増と、なり手不足が同時に進行していることがあります。
教師不足調査と同日に発表された2021年度公立学校教員採用試験実施状況調査によると、小学校の倍率は2.6倍と、過去最低を更新しました。3倍を切ると新規教員の質が保てない、というのが採用担当者の経験則です。中学校は4.4倍、高校は6.6倍ですが、教科によって偏りがあります。
教職員定数は戦後、教育を充実させるため、計画的に改善が行われてきました。しかし小中学校の第7次計画(2001~2005年度)完成後、新たな計画の策定は長らく実現ぜず、新規採用が抑制される時代が続いて、年齢構成もいびつになりました。
近年、第2次ベビーブームに対応するため大量採用された時代のベテラン層が大量退職し、それを補うため採用枠が増えています。ようやく2021年度から5年計画で小学校全学年を35人学級に引き下げる改善が進行することも今後、さらなる倍率低下に拍車を掛けそうです。
一方、採用が抑制された中堅クラスは層が薄いため、仕事が集中するだけでなく、増える若手の指導に手が回りません。一方、若手が増えると、産休・育休も増え、ますます臨任が必要になります。しかし正規採用の増加で、ますます臨任予備軍が減っていきます。
このように教職の「ブラック化」は、単に時代の要請で学校の業務量が増えただけでなく、まさに「構造改革」によって生み出された側面があります。それが教職の不人気にもつながり、悪循環に陥っているのが実情なのです。
(教育ジャーナリスト 渡辺敦司)
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