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もし日本がウクライナのように攻撃されたら…自分と家族の命、どう守る?

世の中のさまざまな事象のリスクや、人々の「心配事」について、心理学者であり、防災にも詳しい筆者が解き明かしていきます。

キエフの地下鉄駅に避難したウクライナの人々(2022年3月、AFP=時事)
キエフの地下鉄駅に避難したウクライナの人々(2022年3月、AFP=時事)

 ロシアのウクライナ侵攻開始から20日余りがたちました。ロシアは、予想以上の抵抗をウクライナから、そして世界から受けており、焦ったプーチン大統領が核兵器使用をちらつかせるなど、戦争がさらに破滅的な段階に進むリスクも出始めているようです。インターネット上では戦況、停戦協議、経済制裁やその影響を伝えるニュースの他、「次は中国が台湾を攻撃するんじゃないか」とか、「いやいや日本も危ない、明日はわが身だろう」といった声、「日本も核武装をすべきだ」「いやいや非核三原則は守るべきだ」など、さまざまな議論が繰り広げられています。

 これらのニュースや議論を俯瞰(ふかん)してみると、各国が国レベルでどうすべきかということは多く語られていますが、「私たち個人がどうすべきか」ということは、あまり語られていないように思います。これからの「万が一」に「個人がどう備えるか」という話です。万が一、ウクライナのように日本が他国の攻撃に遭ったとしたら…。万が一、戦争が始まってしまったら…。そのとき、自分の命を守るためにどうすればよいのか、イメージし、考え、備えることを、ここではお勧めしようと思います。

疎開先や地下空間、事前に調査

 私は防災や心理学が専門で、国際情勢の専門家でも軍事専門家でもないので、今後日本がどのくらいの確率で戦争に巻き込まれるかとか、どういった兵器が使われ、それにどのくらいの殺傷能力があるのかなどは、あまり詳しくありません。しかし、今回の戦争を見ていて「戦争に対する備えと防災は似ているな」と感じています。防災の基本は、災害をイメージし、どうするか考え、必要な備えをしておくことです。それは戦災への備えにおいても、共通すると思われます。

 災害はハザードマップがあるので、それを見ればリスクの高い場所、低い場所が分かります。一方で、私が知る限り、現在の日本の「戦災ハザードマップ」は見たことがありません。しかし、ハザードマップが整備されるよりずっと前から、私たちは地形や地名、先祖からの伝承などで、災害リスクが高い場所や低い場所を予想してきました。これを戦争に当てはめてみれば、ある程度リスクの濃淡を予測できそうです。

 まず、攻める側の立場から考えると、反撃を防ぐため、最初に軍事施設を攻撃するでしょう。続いて、交通の要衝や発電所、工場などの重要インフラ、そして政府機能がある場所や政府機能を移転できそうな大都市が狙われそうです。

 実際にロシア軍のウクライナ侵攻を見ていても、太平洋戦争を振り返っても、今、述べたような予測が成り立ちます。だとすれば、この反対、つまり、地方の小さな町で、軍事的にも移動の上でも、さほど重要でない場所は、攻撃されるリスクが低いことになります。

 振り返ってみると、太平洋戦争時、子どもたちを対象とした大規模な疎開が行われましたし、個人的に疎開をした人も多かったようです。というわけで、今のうちからそのような場所に、親戚や友人などの「つて」があるか、実際にそこに移転できそうか、そのとき仕事をどうするか、移動手段をどうするかなどを含め、幾つか行動の選択肢を考えておいてもよいでしょう。また、言語やビザなどハードルは上がりますが、可能な人は海外移住も視野に入れてよいかもしれません。

 次にタイミングです。災害も戦災も共通して、避難のタイミングが重要です。普通は何の前触れもなく戦争が始まることはないので、台風が遠いうちから進路予想に注意するのと同じように、不穏なニュースにはアンテナを高くして、タイミングを見計らうことも重要です。

 実際に戦闘が始まってからでは避難時のリスクが高まるし、公共輸送機関の停止、道路の破壊、外出禁止命令、国境封鎖など、避難のチャンスを妨げることが起きる可能性があります。現在のロシアがそうであるように、円の暴落や航空チケットの高騰なども、あり得るかもしれません。ですから、災害同様、可能なら早めに避難しておいた方がよさそうです。

 考えたくないことですが、核攻撃が行われた場合はどうでしょうか。こちらは台風のように遠くにいるうちから分かり、徐々に近づいてくる通常の侵攻と違って、巨大地震とそれに続く津波のように、数分から十数分程度しか、時間的余裕がないかもしれません。

 津波の場合は高台に逃げるのが通常ですが、核攻撃の場合は地下に逃げるのが有効です。自宅や職場など、よく行く場所の最寄りの地下街、地下駐車場、地下鉄駅などを把握し、そこまで避難するシミュレーションをしておくと、良いかもしれません。近くに地下空間がない場合には、なるべく丈夫な建物の、窓のない部屋を目指しましょう。

 もちろん、核攻撃の場合は最初の熱線や爆風から生き延びても、その後の強い放射線で生き永らえることはできないかもしれません。それでも、着弾の瞬間に死んでしまうよりは、未来に希望をつなげられます。

 ここに書いたことは、最悪のシナリオに対する備えです。自然災害と違って、戦争は人間が起こすものなので、まずは起こさないように最大限の努力をすべきですし、起きなければそれに越したことはありません。

 しかし、防災でも戦災でも「最悪の想定」をして、どうするか考え、可能な備えをしておくことが、自分や家族の命を守るために必要なことに、変わりはありません。想定が役に立たないことを祈りつつ、その時どうするか、平和の大切さを訴えることと並行して、今から考えておきましょう。

(名古屋大学未来社会創造機構特任准教授 島崎敢)

【写真】「われわれは自分の国を守る!」ゼレンスキー大統領とウクライナの人々を見る

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島崎敢(しまざき・かん)

近畿大学生物理工学部准教授

1976年、東京都練馬区生まれ。静岡県立大学卒業後、大型トラックのドライバーなどで学費をため、早稲田大学大学院に進学し学位を取得。同大助手、助教、国立研究開発法人防災科学技術研究所特別研究員、名古屋大学未来社会創造機構特任准教授を経て、2022年4月から、近畿大学生物理工学部人間環境デザイン学科で准教授を務める。日本交通心理学会が認定する主幹総合交通心理士の他、全ての一種免許と大型二種免許、クレーンや重機など多くの資格を持つ。心理学による事故防止や災害リスク軽減を目指す研究者で、3人の娘の父親。趣味は料理と娘のヘアアレンジ。著書に「心配学〜本当の確率となぜずれる〜」(光文社)などがあり、「アベマプライム」「首都圏情報ネタドリ!」「TVタックル」などメディア出演も多数。博士(人間科学)。

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