7月に転機? 免許更新制「廃止」後の教員政策はどうなる?
大学入試改革など、高等教育を中心にしたさまざまな問題について、教育ジャーナリストである筆者が解説します。

学校教員の過重負担の一因ともいわれてきた「教員免許更新制」を廃止する法案が現在、国会で審議されています。ただ、中央教育審議会(中教審、文部科学相の諮問機関)の特別部会は、単なる廃止ではなく「発展的解消」と位置付けています。「発展的解消」は、現場の教員の負担減につながるのでしょうか。そして、今後の教員政策は、どうなるのでしょうか。
法案通れば7月以降は講習必要なし
関連法案は、教育職員免許法(教免法)と、教育公務員特例法(教特法)の、主に2つの一部改正案から成り立っています。このうち教免法一部改正案が、更新制に直接関わるものです。
現在、2009年4月以降に授与された免許状には、10年間の有効期限が付いています。法案では、更新制に関する規定を一切削除して、有効期限の定めをなくします。
一方、2008年3月末までに授与された免許状には、後から期限を加えることは法的にできなかったため、対象となる現職教員に35歳、45歳、55歳と10年ごとに免許状更新講習の受講を義務付け、修了確認を受けなければ免許状が失効する仕組みにしていました。こうした規定も、なくなります。
改正教免法の施行日は、今年の7月1日としています。あくまで法案が通る前提ですが、2022年度末に期限を迎える教員は、もう更新講習を受講しなくて済むわけです。
任命権持つ教委に「研修記録」義務付け
もう一つの教特法一部改正案は、まず、公立学校教員の「任命権者」である都道府県・政令指定都市の教育委員会に対して、校長や教員ごとに、「研修等の記録」を作成するよう義務付けます。
対象となる研修は、研修実施者(中核市の教委も含む)が実施する研修、大学院に通うために休職する制度を活用した場合の課程など、任命権者が開設した認定講習や認定通信教育の単位、その他任命権者が必要と認めるものです。裏を返せば、「任命権者が必要と認めない自主的な研修」は、記録されません。
さらに法案では、「指導助言者」に当たる教委に対して、校長や教員に、資質向上につながるような研修を受けるよう、指導助言を義務付けています。市町村立学校の場合、市町村教委が指導助言者となります。ただし、一般教員に対する指導助言は、実際にはその学校の校長等が行うことを想定しています。
改正教特法の施行期日は、2023年4月1日としています。2023年度から、更新制に代わる「新たな研修制度」が始まるわけです。
法案には明記されませんでしたが、中教審特別部会の審議まとめ(2021年11月)では、指導助言に従わず、ふさわしい研修を受けなかった場合には、懲戒処分もあり得るとの考えを示しています。法案成立後、文部科学省がどのような運用指針を示すかも注目されます。
本丸はこれから、教育実習の代替案も
法案が通れば、それで終わりではありません。実は、その後が“本丸”です。中教審では現在、特別部会の下に「基本問題小委員会」を設置して、関連部会とともに、教員の養成、採用、社会人登用の促進、研修と広範囲にわたる教員の在り方を検討し、今年夏ごろまでに一定の結論を出す予定です。
例えば、教職に必要な資質能力として、学習指導や生徒指導に加え、情報通信技術(ICT)や情報・教育データ利活用、特別な配慮や支援を必要する子供への対応を位置付け、大学での免許取得時に担保する基礎的部分と、採用後の研修などで高度化する部分に構造化する案が検討されています。
2月の会合では、教職課程で義務付けられている教育実習を、学校インターンシップや学校ボランティアなどの「学校体験活動」(大学の授業の一環で行うもので、現在も1~2単位として教育実習に含めることができる)に代える案が示されました。段階的に学校現場を学べるメリットに加え、教育実習が一般大学では4年生の前期に、教員養成大学・学部では3年生の後期に行われていることから、民間企業の就職活動と重なるデメリットの解消も狙ったものです。ただし、一定期間に集中すればよい教育実習と比べて、大学入学時など早期から長期間にわたって学校に関わる必要も出てきそうです。
教員志望者が減り続ける中、「教員が魅力のある仕事である」と示せるのでしょうか。今後、中教審でどのような案が示されるか、目が離せません。
(教育ジャーナリスト 渡辺敦司)
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