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有給休暇を申請した部下に「理由は?」としつこく聞く上司、法的問題は?

「有給休暇を取りたいと上司に言ったら、理由を聞かれたけど、それって問題じゃないの?」という投稿が話題になっています。有休を取る理由を聞くのはNG行為なのでしょうか。

有休の理由を聞く上司、問題は?
有休の理由を聞く上司、問題は?

「有給休暇を取りたいと上司に言ったら、理由を聞かれたけど、それって問題じゃないの?」という投稿がネット上で話題になっています。この投稿について、SNS上では「有休を取るのに理由を説明する必要はない」「理由を聞いてもいいけど、しつこく聞くのは問題では?」「管理職になった際、『理由を聞かないように』と指摘された」といった声が上がっています。有休を取る理由を聞くのはNG行為なのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

パワハラに該当する場合も

Q.有給休暇(有休)の法的位置付けを教えてください。

佐藤さん「有給休暇は、労働基準法で『年次有給休暇』として定められています(労働基準法39条)。労働者は有休中の労働義務が免除されますが、使用者は有休中も給与支払い義務を負います。

使用者は、(1)労働者が雇い入れの日から6カ月間継続勤務し、(2)その6カ月間の全労働日の8割以上を出勤した場合には、原則として10日の有休を与えなければなりません。そして、継続勤務年数が長くなるほど、付与すべき有休の日数が徐々に増える仕組みになっています。

管理監督者であれ、有期雇用労働者であれ、条件を満たせば有休を与える必要がありますし、労働日数の少ないパートタイム労働者であっても、その労働日数に応じて有休を与えなければなりません。

なお、2019年4月から、有休が10日以上付与される労働者に対して、使用者は、年5日の有休を確実に取得させる法律上の義務を負うことになりました(同法39条7項)」

Q.有休の取得理由を聞くことは、法的に問題がありますか。

佐藤さん「会社が、有休の取得理由を尋ねること自体には、法的問題はありません。ただし、理由を尋ねることによって、有休を取得しにくい雰囲気が生じるのであれば、労働基準法の趣旨に反することになるでしょう。法が、年5日の有休の取得を会社に義務付けたのは、低迷している有休の取得率を向上させ、労働者がしっかり休み、生き生きと働けるようにするためです。

日本には、『有休を取ることで、周囲に迷惑をかけてしまうのではないか』などと考え、なかなか取得申請をしない労働者が多いことを踏まえると、有休を取得しやすい環境を整えることが大切だと思います」

Q.では、理由を聞かれた従業員が「ちょっとそれは…」などと説明しなかった場合や、うその理由を説明した場合、法的に問題があるのでしょうか。

佐藤さん「有休の取得は、労働者の権利なので、会社に理由を報告する必要はありませんし、報告する場合にも『私用のため』といった抽象的な回答で問題ありません。

ただし、うその理由を説明した場合、後でばれてしまうと、信用を失うことになってしまうばかりか、就業規則に『各種届け出等で虚偽の申告を行わない』などのルールが定められていれば、注意や処分の対象になることもあり得ますので、あえてうその理由を説明しない方がよいでしょう。先述したように、『私用のため』で十分です」

Q.従業員が理由を言わないとき、あるいは「私用で」と答えるのみで、具体的な目的を言わなかった場合、しつこく理由を問いただす上司に法的問題はありますか。

佐藤さん「有休の申請を非難するようなニュアンスで、しつこく理由を問いただした場合、有休取得の権利を侵害するものとして、違法と判断される可能性があります。実際、有休の申請をした従業員に対し、『(有休を取ると)非常に心証が悪いと思いますが。どうしても取らないといけない理由があるのでしょうか』というメールを送ったり、『こんなに休んで仕事が回るなら、会社にとって必要ない人間じゃないのかと、必ず上はそう言うよ。その時、僕は否定しないよ』と発言したりして、結果的に従業員が有休の申請を取り下げた事案があり、裁判所によって違法性が認められています。

また、単に理由をしつこく聞き出そうとしただけであっても、程度が甚だしい場合、従業員のプライベートに過度に踏み込む行為として『個の侵害』型のパワハラに当たる可能性もあるでしょう」

Q.「理由を言わないなら、有休を取らせない」と上司が言った場合、法的問題はありますか。

佐藤さん「『理由を言わないなら、有休を取らせない』と言った場合、有給取得の権利を侵害しているため違法であり、上司や会社が損害賠償責任を負う可能性があります」

Q.では、会社側は、どんな場合であっても、有休取得を拒否できないということでしょうか。

佐藤さん「有休の取得は労働者の権利なので、会社が拒否することはできず、原則、労働者は希望する日に有休を取得することができます。

ただし、『請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合』には、有休を与える時季を変更することができます(労働基準法39条5項)。もっとも、裁判上、『事業の正常な運営を妨げる場合』は狭く解釈されており、『繁忙期であるから』というだけで時季を変更できるわけではありません。従業員の希望する日に有給休暇が取れるように代替勤務者確保のため努力をして、それでも確保できなかった場合など、時季の変更が認められるのは例外的な場合です」

Q.そのほか、有休について、会社が違法性を問われるケースを教えてください。

佐藤さん「先述したように、会社は有休が10日以上付与される労働者に対して、年5日の有休を取得させる法律上の義務を負っていますので、その義務を果たさなければ違法となり、30万円以下の罰金に処せられる可能性があります(労働基準法120条)。

その他、アルバイトには一切有休を与えないなど、労働基準法の定める有休に関するルールに違反した場合も罰則が定められています(6月以下の懲役または30万円以下の罰金、同法119条)」

(オトナンサー編集部)

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佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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