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コロナ禍で「出向」「転籍」打診する企業、相次ぐ…そもそも両者の違いは何?

出向や転籍を従業員に打診する企業が相次いでいます。そもそも、出向と転籍はどう違うのでしょうか。経営コンサルタントに聞きました。

出向と転籍の違いは?
出向と転籍の違いは?

 コロナ禍で、出向や転籍を従業員に打診する企業が相次いでいます。希望退職や早期退職よりはよさそうな感じですが、とはいえ、身分や給与がどうなるか、心配な人も多いと思います。そもそも、出向と転籍はどう違うのでしょうか。経営コンサルタントの渡貫久さんに聞きました。

Q.そもそも出向と転籍はどう違うのでしょうか。

渡貫さん「出向も転籍も、現在勤めている会社とは別の会社で仕事をすることになる点は、同じです。しかし、出向が現在の会社と雇用契約を結んだままであるのに対し、転籍はその名の通り、『籍』を現在の会社から別の会社に移す、つまりは、現在の会社を退職して、別の会社と雇用契約を結ぶことになる点が異なります。

出向の場合は一定期間を経て元の会社に戻ることが前提になりますが、転籍の場合は転職しているのと同じ状況になるので、元の会社に戻ることは、通常はありません。そのため、それぞれにメリットとデメリットが発生することになります」

Q.従業員にとっての、出向のメリット、デメリットは。

渡貫さん「会社が出向を指示する場合、子会社や関連会社との人材交流、人員配置の最適化、人材育成などを目的とすることが考えられます。その場合のメリットとしては、出向先で経験を積み、実績を出すことで、元の会社に戻ってからの出世が期待できることがあります。また、転職することなく、別の会社で働くことでキャリアを積むことができるのは、将来的な転職で有利な場合もあるでしょう。

一方、デメリットとしては、慣れた勤め先から別の会社に移ることで、大きく環境が変わることがあります。仕事内容はもちろん、人間関係もゼロからつくり上げていく必要があるため、大きなストレスになる場合もあります」

Q.従業員にとっての、転籍のメリット、デメリットは。

渡貫さん「転籍の場合、その目的が会社の人件費削減や雇用調整である場合が多いので、従業員から見たメリットは限定的になります。その中でもメリットとして考えられるのは、通常の退職をする場合は、自分で新しい就職先を探す必要がありますが、転籍の場合は就職先が決まっていることがあります。元の会社の業績が悪く、人員整理されそうな状況、人間関係に問題があり転職したかった、といった状況であれば、転籍もメリットがあると言えるでしょう。

一方、デメリットとしては、元の勤め先との雇用関係がなくなりますので、給与などの待遇面が大きく変わることになり、多くの場合、条件が悪くなることです。また、転籍の時点で前の会社から退職金が支払われるので、勤続年数で退職金が増える会社の場合には、それがリセットされることもデメリットと言えるでしょう」

Q.会社側にとっては、出向と転籍、どちらのメリットが大きいのでしょうか。

渡貫さん「これはケース・バイ・ケースになります。子会社や関連会社との人材交流、人員配置の最適化、人材育成などを目的とする場合には、雇用契約を残したままの出向の方がメリットはあります。

また、今現在であれば、新型コロナウイルスの影響で雇用の維持が難しくなった事業主が、雇用維持を目的とした出向を行う際に『産業雇用安定助成金』を活用できるのも、出向のメリットになります。

一方、転籍のメリットとしては、解雇などを行うことなく人件費を削減できることがあります。転籍先が関係会社や取引先で人員を求めているのであれば、転籍先との良好な関係構築につながる可能性もあります。従業員に戻ってもらうことを前提にするのであれば出向の方が、人件費の削減であれば転籍の方が、メリットは大きいでしょう」

Q.もし、出向か転籍かを従業員が選べる状況であれば、どちらを選ぶべきなのでしょうか。

渡貫さん「従業員サイドから出向か転籍かを選べることは普通ありませんが、仮に選べるのであれば、雇用契約を維持できて元の会社に戻ることができる出向を選んだ方がよいでしょう。

もちろん、転籍した方が、雇用条件が良くなる、人間関係の問題で今の会社を退職したい、今の会社は転勤があるので子どもが小さいうちは働きにくい、といった固有の事情があれば、転籍を選んだ方がよいでしょう」

(オトナンサー編集部)

渡貫久(わたぬき・ひさし)

経営コンサルタント、中小企業診断士

1972年生まれ。大学卒業後、広島市に本社のある食品スーパーに入社。売り場、人事部、経営企画室、業務改革推進室を経験した後、中小企業診断士の資格を取得し独立。食や流通関連の企業を中心としたコンサルティングのほか、公的機関、学校、民間企業向けの研修を行なっている。食料品小売業の経験が長いことから、マーケティング、販売促進、販路開拓、商品開発が特に得意分野。コンサルティングから具体的な経営支援まで行う企業「ユーミックプロデュース」(https://www.u-mic.jp/index.html)代表。

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