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「うちの子は発達障害」と受診せずに決めつける親たち 「自己判断」の危うさ

「僕は“発達障害系”だから」「うちの子は“多動ちゃん”だから」。専門機関に診断されたわけではないのに、そうした自己判断をする人たち。自閉症児を育てた筆者が、その背景について考えます。

片付けられない=発達障害?
片付けられない=発達障害?

 自分のことを「俺って“◯◯系”だから」と、堂々と言う人がいます。それと同じように、わが子について、単にしつけができておらず、我慢することを教えていないからわがままなだけなのに、「うちの子は発達障害なのではないか」と決めつけたがる親御さんがいるのです。

「発達障害のせい」にしたい

 専門機関を受診することなく、「自分は発達障害である」と自己判断している大人を、たまに見掛けます。例えば、「相手の立場に立つことができない」「相手に気遣いができない」「時間にルーズ」「約束を守らない」といった態度や振る舞いを人から指摘されたとき、それは自分の性格や考え方の範囲なのに、「僕は“発達障害系”だから許してね」と開き直っているケースです。

「コミュ障」「◯◯系」「空気が読めない」――。実際に発達障害の子を苦労して育てている親御さんや、大人の当事者は、そういった言葉で簡単に済ますことのできない過酷な日常を送っているので、不快に思ってしまいます。人間にとって、コミュニケーションがうまく取れないことは、過酷な生き方を強いられることだからです。

 精神科医の香山リカさんの著書「『発達障害』と言いたがる人たち」の中には、「部屋が片付けられない、書類の提出ができない――。それを、自分のやる気や性格のせいではなく、生まれつきの脳の機能障害である『発達障害のせい』だと思いたがっている人たちがいる。また、『“ただの人”でいたくない』『他の誰とも違う同一性が欲しい』と願う人たちの中には、発達障害というまたとない“個性”を欲しいと思っている人がいる。そうした人たちの多くは、『あなたは発達障害ではありませんよ』と言われると、失望の表情を見せる」といった趣旨の内容が記されています。

 子どもを育てている親御さんの中にも、病院の待合室で騒ぐわが子を叱ることなく、「うちの子は“多動ちゃん”だから許してね~」「うちの子は注意欠陥多動性障害(ADHD)だから」というスタンスを取ってしまっている人もいます。中には、子育てがうまくいかないのを自分のせいだと思いたくないため、「わが子は発達障害である」という“お墨付き”を欲しがる親御さんもいるようです。

 こうしたケースは、学校の先生にもみられることがあります。自分の指導力がなく、けじめをつけられないために学級崩壊が起こってしまっているにもかかわらず、「うちのクラスには、支援学級に行った方がよい発達障害の子が、結構な割合でいる。だから、教室から出ていったり、私語をしたりする子どもがいるのだ」と、クラスが荒れているのを子どものせいにしている先生が実際にいました。

どこからが障害で、どこまでが個性か

 親御さんの中には、次の例のように、特に不安感が強いケースもあります。

・友達と一緒に何かをするよりも、一人で遊んでいたいタイプのわが子に対して、「うちの子は自閉症かもしれない」と不安になる。

・保育参観で、いすにじっと座っていられなかったり、元気に走り回ったりしているわが子。お友達よりも好奇心旺盛で、一つのことにじっと取り組む集中力がないだけなのに、「ADHDかもしれない」と不安になる。

・忘れ物が多かったり、片付けられなかったりする。注意力が不足しているだけなのに、「障害があるのかもしれない」と思ってしまう。

「◯◯病の初期症状は△△である」と耳にすると、体の症状を全部それに当てはめて不安になる人がいますが、それと似ていますね。しかし、このようになってしまうのも無理はないのです。どうしてかというと、人間の行動や態度というものは、境界線が曖昧なグラデーション状だからです。例えば性格について、「80以上は明るい人、40以下が暗い人です」なんていう数値的な物差しはなく、個々の感覚で相手を捉えて言っているだけだからです。

 発達障害についても同様です。これだけ医学が進歩しても、採血で数値がはっきり出て、「はい、あなたのお子さんは発達障害です」と診断できるような、客観性のある生物学的マーカー(指標)はありません。専門の医師がさまざまな検査をし、行動を観察した上で診断しているのが現状なのです。

 私の息子は知的障害のある自閉症児として育ち、現在21歳です。21年前、息子が生まれた頃は、発達障害に関する情報はおろか、「発達障害」という言葉自体を耳にする機会もほとんどありませんでした。でも今は違います。ありとあらゆる情報が、いやが応でも入ってきてしまう時代です。だからこそ、自身のことでもわが子のことでも、つい自己判断してしまいやすいのですね。

 自己判断をすること自体を止めはしませんが、もし、さまざまな不安に駆られている毎日を過ごしているのならば、専門機関を受診し、診断してもらった方がよいと思います。

(子育て本著者・講演家 立石美津子)

立石美津子(たていし・みつこ)

子育て本著者・講演家

20年間学習塾を経営。現在は著者・講演家として活動。自閉症スペクトラム支援士。著書は「1人でできる子が育つ『テキトー母さん』のすすめ」(日本実業出版社)、「はずれ先生にあたったとき読む本」(青春出版社)、「子どもも親も幸せになる 発達障害の子の育て方」(すばる舎)、「動画でおぼえちゃうドリル 笑えるひらがな」(小学館)など多数。日本医学ジャーナリスト協会賞(2019年度)で大賞を受賞したノンフィクション作品「発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年」(中央公論新社、小児外科医・松永正訓著)のモデルにもなっている。オフィシャルブログ(http://www.tateishi-mitsuko.com/blog/)。

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